阿婆擦れ-4
翌日、優香は祖父の清次の家を訪れていた。
「優香ちゃん。よお、着てくれた。
ちょっと待てよ。美味しいお菓子があるんじゃ。」
「じいちゃん。相談があるんじゃ。
先に話を聞いてくれ。」
「優香ちゃんは、せっかちじゃのお。
何じゃあ、じじいに分かることかの?」
「じいちゃん。金貸してくれ。」
「ほお。どおした。何につかうんじゃあ。」
「花嫁修業に行くんじゃあ。」
「おお、それはええなあ。
好いた男ができたか?」
「じいちゃんは、話しが早ようて好きじゃあ。
そうじゃ。町へ出て修行したいんじゃあ。」
「優香ちゃんが、そこまで好いとう男は、
さぞかし良い男なんじゃろうの?」
「ほんに、ええ男じゃ!
じいちゃんに合わせてやりたいが、
まだ、優香のこと好いとうかどうかは分からん・・・・・」
「ほう、それでも行くんか?」
「行く!」
清次が優しい笑顔で、優香の眼を覗き込む。
優香の眼を見て、清次の笑顔が更に優しいものに変わった。
「そうか、そうか。金は出したろう。
お母ちゃんは、それを知っとるのか?」
「・・・・・・・」
「そうか。知らんのか。
それで、あてはあるんか?」
「・・・・・・・」
「そうか・・・・・・
優香ちゃん。ちょっと待っとってくれるか。」
清次は、どこかへ電話を掛けているようだった。
電話を終えると清次が戻ってきた。
何やら清次は嬉しそうだった。
「優香ちゃん。こちらにお世話になったらええ。」
清次は小さな紙切れを優香に手渡した。
「優香ちゃん。じいちゃんのお願いを一つ聞いてくれるか?」
「これから優香ちゃんが行くところは、もう大人の世界じゃ。
お世話になる方のご恩を絶対に忘れんようにして欲しいんじゃ。
優香ちゃんなら分かってくれると思う。
それがじいちゃんのお願いじゃあ。ええか?」
「分かった。じいちゃんありがとう。」
自由奔放に生きてきた清次は、自分の生き写しのような性格を持つ優香を目に入れても痛くないほど可愛がっていた。そして、優香の強い意思を押さえ込むことが出来ないことを誰よりも知っている。ただ、可愛い孫が人の道を踏み外すことのないよう、導いてやりたかった。