reality ability‐第12話‐“真実”の敵、‥‥ナイトメア・アビス──‐-7
「‥本当は体力をもう少し削って使いたかったが、気が付いたようだからな。」
皇希は意外と手加減していた。いつも通りの事だが、今回は違う。相手は父親みたいな者だ。流石に皇希も情があった。
いや、理由が解らない。会った事はないし、況してや話した事すらないのだが、結果として皇希は彼を助けている。
《‥‥皇。何故、その優しさを表に出さないの?‥‥人嫌いになったのはイジメのせいだよね?》
織音はふと思った。こんな戦いの最中に悠長な考えをしている織音だが、何故か織音に攻撃は来なかった。理由は解っていた。
皇希自ら、囮になっているのだ。それは織音を守る為だろう。それに皇希はこの仕組まれた戦いを早く終わらせたいのだろう。
こうしている間もカオスは片膝を地に着けるまでの状態になった。‥‥身体から黒い“何か”が出てきた。
「‥しぶといな。“ナイトメア・アビス”?」
皇希が近付きながら言った。皇希は“それ”の事をナイトメア・アビスと言った。名前みたいなものだろう。
〈貴様ぁ!?何だ、その力はぁ?〉
“それ”の‥“ナイトメア・アビス”の声はまるで拡声器を使った声で部屋内に響き渡る。
「‥‥そろそろ終わらせてもらう。」
皇希が無放剣を構える。剣先を“ナイトメア・アビス”に向けた。
「‥我が剣(つるぎ)よ。宿る力を今‥‥ちっ!」
皇希が詠唱中に“ナイトメア・アビス”を神魔 唖紅笥の身体から離れた。そして、織音に向かった。織音の身体を乗っ取るつもりだろう。
「えっ?」
織音は何も出来なかった。“ナイトメア・アビス”は行動を止まらない。だが‥‥
〈何ぃ!?〉
「えっ!?」
2人は驚いた。織音の周りには謎の障壁があった。
「‥させるかよ。‥‥俺が何もしてないと思ったか?」
皇希は既に織音を守っていた。“ナイトメア・アビス”は扉から外に出ていった。皇希は後を追うように走っていく。
「‥‥‥」
織音は茫然としていた。いつの間にか、皇希が張っていた障壁によって防がれた事じゃない。織音は何となく感じていたから。
それに“ナイトメア・アビス”が織音に乗っ取る事でもない。織音はそのパターンも考えていたからだ。
‥茫然としている理由は、神魔 唖紅笥に再度乗っ取る事をしなかったからだ。一度乗っ取る事が出来たならもう一度出来る筈と織音は思った。
そんな織音に声が掛けられる。神魔 唖紅笥が意識を取り戻した。
「‥‥ぅ。‥織音‥さん。皇‥希の後を‥追‥うん‥だ‥‥」
声が途切れ途切れである。理由は簡単。随分使ってなかったから、久しぶりの自分の身体に慣れてなかった。それに体力を削られてもいる。
織音は唖紅笥に近付き、座って上半身を抱える。‥よくある光景が出来上がった。