……タイッ!? 第二話「励ましてあげタイッ!?」-3
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週末に高校総体を直前に控えた月曜日、陸上部一同は張り詰めていた。
実のところ夏休み明けにも市の大会があるのだが、かなり意味合いが違う。
簡単にいえば規模。新人戦もかねているが三年生、進学校の場合二年生が夏休み前にほとんど引退するため、出場者は近隣高校を集めても百人程度。所詮は市の一大会に過ぎず、上位入賞を果たしたところで表彰されるぐらいで、推薦入試の材料としてはいまひとつ華が欠ける。
つまり、上位が参加せずの出来レース、高校最後の思いで作りをさせましょうというものである。だからこそ、二年生は今大会に全力を尽くそうとしている。
幅跳びを選択している橘紅葉は入念に踏み切りまでのフォームをチェックしており、ビデオカメラを使って何度も確認をしていた。
長距離走の前園美奈子は後輩の綾にペースの確認を依頼している。
他の二年生も各々最後の希望に向けて汗を流していた……が、久恵は一人隅っこで柔軟運動をしていた。
「先輩、練習いいんですか?」
紀夫はビデオのバッテリーを交換するついでに声をかける。
「うん。今からがんばっても意味ないし。っていうか、怪我したら元も子もないじゃない?」
紀夫は久恵が短距離走を選択していたのを思い出す。
確かに一日二日根をつめた程度で記録が左右されるはずもなく、彼女の言うことももっともかもしれない。けれど、最初から諦めムードの漂う彼女を見るのは心中複雑だった。
「おーい、ノリチン! こっちこっち!」
「あ、うん。今いくよ」
とはいえ発破をかける言葉も見つからず、急かされるまま理恵のほうへと走る。
「えっと、これは?」
ビニール製のぽんぽんが多数と、それを持つチアリーディング部の面々を前に紀夫は首を傾げる。
「うん。応援団だよ。総体での応援に来てくれるんだって」
「はあ……」
入学式の後でのレクリエーションでチアリーディング部のパフォーマンスを見たことがある。白を基調としたレオタードのようなユニフォームとミニのスカートをヒラヒラさせながら演技をこなす姿に見惚れていたのは良い思い出。
桜蘭はまだ男子が少なく応援団も組織されていないので、チア部が応援しに来てくれるらしい。そしてチア部の面々も久しぶりの晴れ舞台に意気揚々としていた。
「で、僕に何しろっていうの?」
「えっと、参加?」
ひとさし指を唇に当ててしれっと言い放つ理恵に、さすがの紀夫も驚きを隠せない。
「や、ヤダよ。絶対やだからな!」
女子のそれを見るならともかく、股間の切れ込みどぎついユニフォーム姿で踊るなどもってのほか。
「でも、男の子もいるよ?」
「うえ?」
チア部員達を見ると……、背の低い男子が一人、ツインテールの女の子にからかわれながらぽんぽんを持っているのが見えた。
――マジですか?
さすがに上下は普通の体操服なのでそれほど驚かないが、やはり抵抗がある。
「あはは、コータ、似合ってるよー」
「やめてよりっちゃん、僕こういうの慣れてないんだから……」
慣れていたらそれはそれで問題と思いつつ、童顔、おかっぱ頭の男子から目を逸らす。
グラウンドのほうでは走り込みを終えた稔と優が戻ってきており、タオルで顔を拭いていた。
「ゴメン、マネージャーとしての仕事あるから、それじゃあね!」
「あ、こら待ちなさい!」
理恵の悪趣味に付き合わされるのはゴメンと、紀夫は駆け出していた。