……タイッ!? 第二話「励ましてあげタイッ!?」-10
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一日目の協議が途中で終了になったのは本降りの雨のせい。関係者が皆雨でつぶれたテントをたたむのに忙しく、それどころではなくなってしまったのだ。
帰りのバスの中でずぶ濡れになった部員一同はタオルで髪を拭き、たまにくしゃみをしながら不運を嘆いていた。
ただし、
「綾ちゃん、入賞オメデトー!」
女子短距離で入賞を果たした綾への労いが溢れていた。
「いやいや、これも日頃の練習の成果ですよ」
いつもはクールを装う綾は照れながら髪を拭いている。彼女自身、今日の結果には手ごたえを感じているらしく、拳を握り締めては何度となく頷いていた。
今日の競技の結果で入賞を果たしたのは他に美奈子と紅葉、それに和彦。例によって例のごとく和彦は愛理にべったりだったが、部員達も下手に触ってもウザイとばかりに放置している。
紅葉は自分の跳ぶ様子を納めたビデオを何度も見直して、「さすがあたし」と悦に浸り、美奈子は綾とフォームについて語っていた。
結果を出せずに終わった二年の部員も変に気負うことなく、来年の受験勉強へと頭を切り替えている。
もちろん、明日に競技を控えてる部員もいるわけで、突然の雨に複雑な面持ちをしており、その一人、里美は後ろの席で俯いていた。
明日の長距離走が最後ではない。来年もある。
……なのにプレッシャーが重く圧し掛かる。
彼女はこれまでも何度か大会に参加してきたし、大舞台も今回が初めてではない。
前のほうに陣取る男子部員がその原因だろうか? 確かに彼らと顔を合わせると呼吸が荒くなる。けれど、それも最近は収まってきた。
なら?
純粋に力不足である。
他の部員と比べれば充分に実力のあるアスリートな彼女だが、伸び悩みはいまだに続いている。
反復でえられる成果などたかがしれている。やはり指導力の不足が原因ではないか? もちろんそんなことを今更言ったところでどうなることでもない。それでも男子部員といちゃいちゃしている愛理の後姿を見るのが不快だった。
「大丈夫? 里美ちゃん、さっきから暗いけど……」
もう一つの不快の原因である紅葉がやってくると、里美の気持ちはさらに暗くなってしまう。
「別になんでもないです」
目上の人に対する態度では無いと知りつつも、明日のことを考えてナーバスになっていると偽り、暗い顔のままでいることにする。
「明日は里美ちゃんの出番だからね……」
しかし、紅葉はそれを知ってか知らずか、わざわざ隣に座って話題を投げてくれる。
「はあ、がんばりますよ」
不快になる理由を考えるとさらに苛立ちが増す。自分はあくまでも紀夫とカップリングされたのが不快なのであって、そもそも彼ではその役に不足している。
「そういえばマネージャー君も暗いね。何かあったのかしら?」
ぬけぬけと言う紅葉はしらばっくれた表情だが、たまに里美の様子を伺うように視線を動かすのがバレバレだった。
「別にいいじゃないですか? あんな奴知らないし」
「ふーん。そうなんだ。てっきりぃ……」
「なんですか?」
「てっきりぃ……」
「……」
「……」
値踏みするような視線とわざとらしい沈黙を数秒。
紅葉がどのような先輩だかは一ヶ月程度の付き合いでも分かる。他人のむず痒い部分を探っては傷口に砂糖を塗るような人。痒くなっても掻いたら負け。他人の羞恥や慌てる姿が大好物なのだから。