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エンジェル・ダスト
【アクション その他小説】

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エンジェル・ダストG-7

 同時刻、防衛省中央司令部。

「すると、松嶋は死んだというのか?」

 小会議室で、いつもは冷静な佐藤が興奮気味に声を発している。

「確かに死体は見つかっていないが、あれから5日、やつは何処にも現れていない」
「なるほど…5日なら確実かもしれんな」

 佐藤は納得しながらさらに訊いた。

「それで、雇っていた奴らは?」
「ああ、金を渡して別れた。今頃は──部隊─に戻っているんじゃないか」

 田中はそこまで云うと、思い出したように、

「これで、おまえが用意した20億は必要無くなったな」

 田中は、自分の手柄だと云わんばかりに誇張する。
 そんな田中に佐藤は薄い笑いを浮かべて首を振った。──どうしようもないヤツだと云わんばかりに。

「だからおまえは短絡思考と云うんだ」
「しかし、松嶋が死んだ今、李を懐柔する必要は無くなっただろう?」
「五島はどうする?ヤツは唯一、松嶋のパートナーだぞ」
「はッ!あんなハッカーまがいに何が…」

 高飛車な田中の言葉を佐藤は遮った。

「そう、やつはハッカーだ。が、もし、李が手助けをして大陸から──職人─を送り込んで来たらどうする?ヤツひとりでも結論に達するぞ」

 浮かれ気分の田中に冷水を浴びせる佐藤。上官の中西は、よほど人事に長けた人物なのだろう。
 静と動、実によく考えられたコンビネーションだ。

「分かった。で、李の説得はいつ行く?」
「今から行こう。李は精神的にまいっているはずだ」
「今からだとッ!」

 佐藤の突拍子もないアイデアに、田中は思わず語気を荒げた。が、佐藤自身には勝算があった。

「おまえの考える通り、今日行っても門前払いを喰らうだろうよ。
 しかしな、李とて商人だ。良いディール──取引─を毎日提示し続ければ、必ずこちらになびくはずだ」

 自信に溢れた佐藤の言葉。聞いている田中が引き込まれるほどに。

「そうと決まれば先を急ごうッ」
「そうだな」

 2人は意気揚々と李邸を目指す。ミスリードなど未塵も考えずに。




 蘭が部屋から出て行くと、五島は酒ビンをテーブルに置いた。
 その目は充血しているが、鋭さは普段と変わらない。

 そっとバスルームに引っ込むと、カップ麺と缶詰を摂った。
 五島は1日1食で体調を維持していた。──蘭を欺くために。

 恭一のルノーが県警から戻ってきた時、さすがの五島も──最悪のパターン─を予想した。
 が、その夜、彼の携帯が1回だけ鳴った。ディスプレイには──公衆電話─と表示された。
 これは、五島と恭一で決めていた連絡方法だった。

 ──あいつは生きているッ。

 その時、彼なりに考えた。──あいつなら、このチャンスをどう生かす─かと。
 そして出した結論が酒びたりの日々だった。

 ──必ずあいつは戻って来る。それまで、オレは蘭のガードを下げさせるしかない。

 五島は、カップ麺と缶詰の空を水ですすぐと、冷蔵庫の中にそっと置いた。


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