エンジェル・ダストG-6
「ところで、五島さんは?」
李の問いかけに、蘭は苦い顔になった。
「それが…あの日以来、食事を召し上がった痕跡も無く、ただ、酒びたりで…」
蘭の報告に、李は同情的な顔を見せながら、
「気持ちは分かる。しかし、それでは身体を壊すだろう。
すまないが、何か持って行ってくれないか?」
李の頼みに蘭は深々と頭を下げた。
「かしこまりました」
「頼んだよ…」
蘭は部屋を後にした。李は再びベッドに身体を預けると少し眠ることにした。
「五島様、五島様ッ」
蘭は客間を訪れた。恭一が出掛けた翌日、彼女は五島の頼みにより県警からルノー4を回収した。
だが、それから恭一は消息を断ってしまった。五島に云わせれば、こんなことは初めてだった。
その翌日から五島はハッキングを止め、部屋のキャビネットにある酒をあおりだした。
無二とも云える友人の死。
五島は、冷静に受け取められるほど心の強い人間では無かった。
「開けますよ」
蘭がドアを開いた。猛烈な汚臭に混じり、アルコールの臭いがした。
「何しに来たんだッ!」
五島はリビングのソファに腰掛け、朝から飲んでいた。
キャビネットのウイスキーやバーボンは、半分ほど空になって床に転がっていた。
「あれから4日になります。何か召し上がりませんと…」
「いらん世話だッ!オレはこのとおり元気だ、さあ、出てってくれッ!」
五島はそう云うと、バーボンを一気に流し込む。──頬はこけ、目は充血して落ち窪んでいた。
蘭は一礼をすると客間を後にした。今は何を云っても無駄だと思って。
人間、深い悲しみを受けると2つの種類に別れる。
悲しみを忘れるように、他のことに必死になるタイプと、悲しみを忘れられずにいつまでも引きずるタイプに。
どうやら五島は後者のようだ。
蘭は仕事場である事務所に戻る途中、自室のドアを開けた。
中に入ると、テーブルに置いてある小さなノートパソコンを開いた。
──報告。松嶋恭一は5日前に陸自、特殊部隊と相まみえた結果、死亡した模様。
今後は、松嶋が李に託した──次期戦闘機─の情報を回収予定。
蘭は送信ボタンを押した。普段なら、李や五島のトレースを気にして、──連絡─も細心の注意を払うのだがその日は大丈夫に思えた。
五島や李の精神状態は、トレース出来るほど平静ではないと蘭は考えたからだ。