特別な色の華-5
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その日の昼休み、俊樹はいつものように買ったパンを持って屋上に行く。
通常、屋上は生徒立入禁止で、西館の屋上は頑丈な鍵によって入れないが、東館の屋上は扉自体がかなり古くコツを掴めば難無く入ることができる。
誰もいないコンクリートに腰掛け、一口目を頬張ったところで、突然声を掛けられた。
「やあ、酒井君。」
聞き覚えのある声のした方を見ると、宮内華子が大きな包みを持って立っていた。
俊樹は驚きでパンを落としそうになるが、表情には出さなかった。
「こういう良い場所知ってるなら教えてくれればいいのに、けっちぃな。」
一度も話したことがないのにまるで幼なじみか何かのような口をきき、当然のように昼食を広げる華子に俊樹は半ば呆れた。
こいつに段階や雰囲気を求める方がおかしいか。
俊樹はため息をつき、いつものように、でも目立たない程度に華子を観察し始めた。
大きな包みから出て来た大きな弁当箱には、その小さい体のどこに入るのかと不思議になる程大量の昼食が詰め込まれていた。
「…すごいな。」
俊樹が思わずつぶやくと、華子がにっと笑う。
「でしょ?毎朝早起きして作ってんだもん。」
そういう意味じゃないんだけどな、と思いながらも俊樹はその言葉に多少の驚きを覚えた。
「質問です。」
華子は唐突に言うと、俊樹を真っすぐ見る。
「もし酒井が女で夫に浮気されたら、一、泣いて夫に訴える、二、気付いていない振りをする、三、相手の女性に会いに行く、どれ?」
なんだそれ、と思いながらも俊樹は口を開く。
「四、即離婚して慰謝料がっぽり。」
「やっぱりだ。」
俊樹が華子の提示した項目以外のことを答えたのに、華子はなぜか嬉しそうな顔をする。
「お前はどうなんだよ。」
俊樹の問いに対して、華子はひらひらと雑に手を振った。
「私は結婚なんて出来ないし、しないから関係ないの。」
「ずるい答えだな。」
わざとらしく呆れた顔を作り、俊樹は軽く笑う。
華子はその言葉を聞き流して俊樹を見る。
「私さ、あんたの事気に入ってるんだ。」
「へえ。」
多少の驚きを表情に出さず、やる気のない乾いた声を出す。
そんな俊樹の態度に華子はますます嬉しそうに笑う。
「そういうとこだよ。なんで、とか、どこが、って聞かないんだよねえ酒井は。」
「別に興味ないから。」
「前さ、なんとなく教室の中にある全部の目を見た時、みんな示し合わせたみたいに私の目逸らしてたけど…あんただけは見てた。」
華子はそのときと同じように俊樹を真っすぐ見た。