小悪魔たちに花束を【新天地編】第一章 晴嵐編入(前編)-3
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校門まで案内されたあと、ボクは事務所で場所を聞いてすぐ校長室に行った。
そこでボクを待ってたのは、中等部の校長先生と、藤堂と言うボクが入る事になる二年二組を受け持ってるって言う、男性教師だった。
そして今ボクは、その藤堂先生の後について教室に入って黒板の前に立ってる。
その隣では藤堂先生がボクの名前を黒板に書き込んでる最中だ。
女子校だから当然なんだけど、教室の中には先生を除けば女の子しかいない。
そんな女の子だけの教室にボクが居ることが、なんだか場違いに感じる。
もっと簡単に言えば『ここにいてはいけないような』感じ。
『もしかして、女子校に入ったのは間違い。
だったかな?』
早くも後悔し始めていたけど、今更そんな事を言った所で『後悔先に立たず』『あとの祭り』と言うヤツだ。
内心でため息を吐きながら、新しいクラスメイトたちの反応を観察する。
ボクに興味剥き出しの人。
全然、興味のなさそうな人。
両極端を基準に、様々な態度でボクを迎えてる。
そんな個性豊かな女の子たちが同じ空気の中にいる。
そう思うと、なんだか不思議な感じがした。
「鳴海くんはこの二組に入ることからも分かる通り、編入試験で優秀な実績を示した。
皆、彼女と仲良くしてやってくれ」
『その説明で誰が友好的になってくれると?
もしかしてケンカ売ってんの、この人?』
そんな思いを隠して、ボクは緊張しながら頭を下げる。
「えっと、鳴海 晶です。
皆さん、よろしく」
「じゃあ、席は二つ並んで空いているが、君の席は前の方だから」
そう言って席を指差す担任に返事をすると、ボクはその席まで歩いて行く。
それまで転校した事がなかったボクは、その席に着くまで好奇心に満ちた視線に晒された事で、初めて転校生たちの味わった気まずい気持ちが分かった。
席に着いたボクが黒板の方に目を向けた時、担任の姿がなかった。
S.H.R.が終ったんだと思ったボクは、掲示板に張ってあった時間割り表で一時間目の授業が何かを見てみた。
そしてそこに書かれていたのは『体育』と言う二つの文字。
……………。
それを裏付けるかのように立ち上がるクラスメイト達。
『体操服なんて、持ってないよ……』
転校して一日目でいきなり窮地に立たされたボクは、呆然とするしかなかった。
「ど〜したの〜ぉ、鳴海さ〜ん?」
そんな時だった。
優しくボクに声をかけてきた女の子がいたのは。
「今日の一校時目はぁ、体育だよ〜ぉ?」
ボクは横を向いて、その少女を見上げる。
「何にも聞いてなくて……。
……教科書なんかはさっき貰ったんだけど、体操服なんかは、貰ってない……」
「え〜ぇっ!?
それってヒドイね〜ぇ?」
その少女はボクが思っていた以上に驚いて、同情の眼差しを向けてきた。
ボクはその視線が痛くて、黙って俯くことしか出来ない。
「何なに、どーしたの〜?」
その娘の驚いた声に興味を持った女の子達が、ボクとその娘の周りに集まってきた。
「鳴海さんね〜ぇ、今日の一校時目が体育だって教えて貰ってなかったんだって〜ぇ」
そこで騒ぎ出す、見慣れないクラスメイトたち。
「えぇ〜っ、ひっど〜い!」
「藤堂のヤツ、絶対許せないっ!」
「女の子を何だと思ってるのかしら!」
「担任が男だってのも、考えものだよっ!」
「絶対、新手のセクハラだよ、それっ!」
「『何、水着を持ってきてないだと?罰として何も着けずに授業を受けろ!』とか?」
「ありえる〜っ」
「それか、『水着を持って来なかった罰として、放課後残って裸で補習だ!』って言われんの」
「そうそう。
それから、『恥ずかしいなら俺が一緒に入ってやる』って言いながら水の中から鳴海さんの身体を見てるの」
「その後、『全然フォームがなってないっ!』とか怒鳴りながら、鳴海さんのマ○コ触りまくり!」
「最後は『俺のフォームを肌で感じてみろっ!』って言われて、マ○コに粗チ○突っ込まれまくりっ!」
「きゃ〜っ!?
藤堂って、ロリコン〜!?」
「鳴海さん、かわいそ〜ぉ!!」
沈み込んでるボクを置き去りにして、周りで好き勝手に盛り上がってる。
いつものボクなら、いきなりこんな会話を女の子の口から聞かされたら、女の子に対する認識が、一気に一八〇度変わった所だ。
けどボクは、その中で交された幾つかの単語に意識が行っていた。
ボクは、自分の中の恐れを感じた疑問を口にした。
「水着……て、こっちじゃもう水泳、始まってるの?」
最初に声をかけてきた女の子が、質問に応えてきてくれる。
「晴女は室内プールだから一年中ぅ、週に一回水泳の授業があるんだよ〜ぉ。
知らなかった〜ぁ?」
「うん。全然……」