電波天使と毒舌巫女の不可思議事件簿 ―堕胎編―-3
……二人の天使が、囚われていた。男が二人、に見える。
しかし、天使と言えるのだろうか。羽根はもぎ取られ、身体中に拷問の跡が刻まれた姿は、痛々しさしか見えない。
それでも囚われの二人は、何も言葉を発しない。情報を、漏らさないために。
しかし、それもミュリエルが現れるまでだった。
「ミュ、リエル様……！」
本来なら、囚われている立場にとって、こちらは敵のはずなのだ。
それでもミュリエルが敬称をつけられるのは、天使として染み込んだ習性のようなもの。
ミュリエルは、どこまでも清らかに笑み、二人に訊ねる。
「話していただけますか？」
囚われた天使は何も答えない。答えられない。
「……私がここにいる意味、分かりますね？」
理解る。わかりすぎるぐらい、理解る。
ここにいる天使の中で、ミュリエルがここにいる意味を分からない者は、敵味方を問わず、いない。
「私の答えを言いましょう」
清らかな笑みのまま、あまりにさらりと。
「――〔堕胎の刑〕に、処します」
天界で最も残酷とされる刑を、下した。
「情報は引き出せていませんが、よろしいのですか？」
上位天使の一人が訊ねる。あくまで形式的なものだ。
ミュリエルがここにいる時点で、天界の総意は決まっている。
囚われの天使は引き攣っていた。
「ま、待って……待ってください……」
一方が口を開いた。ミュリエルには関係なかったが、この二人は兄弟で、兄が先に口を開いた。
「お、とうとは……俺に、無理やり付き合わされただけ……関係ない、関係ないんです……」
「違う！ 兄さん、俺たちは、」
「黙ってろぉっっっ！！」
「その通りですね」
ミュリエルは兄弟の会話を遮った。
「もう決まったことです。あなた達が何を言おうと、結論は変わりません」
「……てめぇは」
弟と思われる方が、呪詛を吐く。
「俺たちよりよっぽど、残酷な心なしだ……」
「そうですね」
あっさりと認める。ミュリエルは、〔神の意思〕を実行する、特位天使の内の一人。
「処刑者ですから」
天界の司法であり警察であり拷問吏であり裁判官であり――処刑者でもある、天界の最高権力者の一人。
だからこそ、私情は交えない。情に流されることも、ない。
「それでは、開始します」
あまりにも簡単に、もっとも残酷な刑が、始まる。