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電波天使と毒舌巫女の不可思議事件簿
【ファンタジー その他小説】

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電波天使と毒舌巫女の不可思議事件簿 ―堕胎編―-4

 ミュリエルの服が、脱ぎ落されていく。
 均整のとれた身体、上半身の服は全て捨てられ、乳房までが露出するも、ここで欲情できる者はいなかった。
 本来なら、胸の下は臍があるはずの場所。
 そこには、拳大ほどの穴が空いている。しかし、向こう側は見えない。
 穴の中は、暗い。――いや、何もない。
 虚無が、拡がっていた。
「……力を抜いてください」
 ミュリエルの両の手が、囚われたうちの一人の頭を掴む。
 抵抗は、ない。抵抗できない。……特位天使の声は、無条件に天使達を従える。
「う」
 頭が、穴に引き寄せられる。そして。
「う、ああっ……っ!」
 苦痛と快楽の狭間のような、ミュリエルの喉から僅かに漏れる悲鳴と共に。

 虚無の中に、頭が吸い込まれる。

 頭が完全に吸い込まれた。そこで引っかかる。粘り気のある水音がびちびちと抵抗を表していた。しかし首から先を無理矢理に押し込み、「はあっ! は、」肩まで入った。一気に胸と腕を虚無に引き込み「く、う」そのまま、足先まで全てを入れる。

 そして、虚無は一旦閉じられる。
 穴はなくなり、代わりにミュリエルの腹は異様に膨らむ、まるで――いや、比喩の表現は必要ない、臨月を迎えた妊婦だ。
 そして、更に異様は続く。
「は、は、は、」
 荒い息使い――まるで狂人の笑声のような吐息はそのままに、左手に〔現象〕を起こす。
 特殊な、青白く輝く、短刀を創り出し。
「はあっ!!」
 一際大きな声を上げ、短刀を、膨らんだ腹に突き刺す。
 そのまま、ぐちゅぐちゅと腹の中を掻き回す。
 ミュリエルの全身から汗が噴き出し、苦痛の声が漏れ、腹からは赤と……奇妙な色が混ざった液体が滴り落ちる。

 ――ミュリエルの貌は、苦痛と快楽に酔ったような、陶酔の、狂いかけの笑みを浮かべ。

 ぐちゃぐちゃと掻き混ぜられていくうちに、腹は小さくなっていく。
 腹に収まった命は、胎児となった命は、もう一度産まれることの出来ないまま、
 堕胎される。
 産まれてないから、神へ還ることも出来ないままに。

 ミュリエルの腹が元の大きさに戻った頃には、また虚無の穴が拡がっていた。
 まるで――より、喰らいたいかのように、先程より幾分大きくなったように見える穴は、虚無を拡げる。
 そしてミュリエルは、苦痛と快楽に狂いかけたまま、
「あ、……ははっ、は!」
 悦びを、叫ぶ。
 誰もが動けない。迂闊に動くだけで、餌食になりそうなほど、ミュリエルの瞳には、理性がなかった。
 恐怖の根源たる天使は、先ほどとは正反対の乱暴さで、髪を掴み腹に押し込み胎児へ還元してそして堕胎する。
 虚無に吸い込まれる際に聞こえてくる粘った水音は、まるで咀嚼音のように、ぴちゃぴちゃと。
 背中に清浄な白い翼を広げた天使が、腹に異物を突き刺し掻き回すその姿は、発狂した悪夢のようで。
 その光景を、恐怖の眼差しで周りが見ていることすら、ミュリエルはどうでもよかった。
 ミュリエルは天使だから。
 〔神の意思〕を実行することは、この上ない歓びだから。
 処刑も〔神の意思〕ならば、苦痛が伴い快楽に狂いそうになろうと、どれだけ残酷なことを同族に行おうと、それは総て奉仕の歓びに変わる。

「あはは、は、ふっ、くっ、――あははははっ!!」

 狂いかけの天使の笑声に、応えられる者はこの場におらず、故にミュリエルはこの歓びを分かち合うことが出来ない。
 誰よりも神に奉仕しているのに、誰もミュリエルを見ようとはしてくれなかった。
 誰も誰も誰も、見ようとはしなかった。


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