「鬼と姫君」2章B-5
「鬼灯丸―…」
小さく呼ぶ。
鬼灯丸は横にもならず、いまだ明るい部屋の中にいた。
姫の声を聞くと、
「どうされた。具合でも悪くされたか」
ひどく心配そうに駆け寄ってくるのがくすぐったく、姫は少し笑った。
「違うのです。余りにも静かなので、少し心細くて」
姫の笑顔に、鬼灯丸はそうゆうことかと安堵の息をつく。
ならばと、姫を抱え上げた。
驚く姫を後目に、鬼灯丸は先程まで二人で腰をおろしていた場所にそっと横たえる。
姫に上掛けをかけながら、
「では、共に休もう。朝、目覚めて最初にみるのが姫かと思うと、それこそ夢のようだ」
などという。
頭をそっと撫で、寝かしつける様はまるで童にするようで、姫の先程のあらぬ緊張も解けてしまった。
まだまだ、たくさん話したいことがあったのに、鬼灯丸の手が余りにも暖かく心地よく、また隣に人がいるという安心感からすぐに姫の瞼は重くなった。
暫くすると、可愛らしい寝息が聞こえてきた。
寝顔はまだ幼さを残し、あどけない。
漆黒の睫毛は長くしっとりと影を落としている。
少し開いた唇は果実の様に瑞々しく、花のように鮮やかに、甘やかに咲いていた。
昔の面影を残しながらも、麗しく成長した姫を感慨深げに鬼灯丸は眺める。
これ程間近に姫がいることが信じられない。
手を伸ばし、白く輝く滑らかな姫の頬に触れる。
堪えきれずその頬に唇を寄せる。
唇にする勇気はなく、だがその紅く色付く場所へは姫が起きているときに触れてみたいという、傲慢で不敵な気持ちも湧いてくる。
やがて鬼灯丸も守るように姫の隣に横になり、眠りについた。