エンジェル・ダストF-6
李邸客間。
「……とまあ、これが真相だな」
「それで防衛省とペンタゴン──アメリカ国防相が…?」
「そう。だから大学の姉妹校提携でカモフラージュして……だんだ」
客間のダイニングルーム。小ぶりのテーブルにはカップ麺に缶詰が並べられている。
恭一と五島は、互いの対面に座って食事をしながら、事件のシナリオを語っていた。
「しかし、奴らが開発したのはウイルスなんだろう?
確か、CDCとロシアの防疫研究機関は、すべての有毒ウイルスのDNAを解読して保管していて、例え新種のように現れたとしても、解読して感染源の判明が出来るんじゃなかったか?」
五島は麺をすすりながら問いかける。
「五島。今どき生物兵器の開発なんて先進国はやらんよ。
アメリカは1,980年代後半に手を引いた。──あまりに非人道的という理由からだ」
「じゃあ、奴らは何を?」
「………」
「なんだとッ!」
導き出された答えに五島は驚きの声をあげた。
「奴らは──新たなウイルス─を創りだし、再び非人道的な考えに魅了されてしまった」
「それに関わっているのが佐藤と田中か…」
「アイツらは手足に過ぎない。本当の敵は……」
恭一と五島の1語1句が車内に流れる中、男達は一様に苦い顔で聞き入っていた。
「…まずいな」
男達のひとりから声が漏れた。
「ああ。どう調べたかは知らんが、松嶋はとうとう核心を掴んだようだ…」
「まず、報告してから今後の指示を受けよう」
「そうだな…」
男のひとりは、自らのヘッドホンを外すと運転席へ移動して、
「じゃあ、出すぞ」
合図とともに、シボレーを路肩から右に切って車道に乗せた。
そして道行く人を避けるように、巨大な車体をくねらせながら闇へと消えてしまった。
「どうだった?」
再び客間のバスルーム。五島は嬉々とした表情を恭一に向けた。
「まあ、あんなもんだろ。奴らの手下は慌てて報告に向かうんじゃないか」
「すると今後は執拗に狙ってくるな」
そんな言葉に、恭一は嘲けり笑った。──思い描く青写真通りと云わんばかりに。
「まさに──1石2鳥─といえるオペレーションを用いるのさ。そのために……」
恭一はバスルームを飛び出すと、リビングにある電話の受話器を取った。
途端に美しい声が耳に届いた。
「蘭さんですか?松嶋だが、至急、李さんとお会いしたい。都合を訊いていただけますか?」
──いよいよアクション開始だ。
受話器を戻す恭一の目は静かに燃えていた。