エンジェル・ダストF-3
そうして、おおかたの話が終わり掛けた頃、
「ところで、今回も──アレ─を使ったのか?」
佐藤が田中に問いかけた。
「ああ、そうだ。──あの事件─からバージョン・アップさせたフェーズ?だ」
「大丈夫なのか?」
佐藤の心配を他所に、田中は鼻を鳴らして笑いだす。
「大河内の時にはフェーズ?を使って大丈夫だったんだ。今回はその進化型だ。バレるはずないだろう」
「だったら良いが…」
「おまえは心配しすぎだよ」
答える田中は、一種、感慨深い表情で天井を仰ぐ。
「しかし、──オペレーション・エンジェル・ダスト─とは、よく云ったものだ。
その塵を吸い込んだモノは天国に召される。名付けたヤツはよほど気が利いてるぜ」
「…誰だと思う?」
佐藤は真面目な口調で訊いた。
「さあ?誰なんだ」
変わり様が不思議な田中。が、佐藤は強い言葉遣いを変えない。
「中西次官だよ」
聞いた瞬間、田中の表情が蒼白に変わった。
中西幸一。50歳。防衛省政務次官。旧防衛庁時代からのキャリア組。
大臣などを除き、防衛省のトップ。云うまでもなく、佐藤、田中の上官。
「…どうりで…」
「その件で変な話はするなよ。オレ達は、次官の手足で動き回れば良いんだからな」
佐藤の釘刺す言葉に、田中はただ黙って頷いた。
──リビングに3箇所、ベッドルームに2箇所あったがどうする?
客間の中。五島は盗聴器を探す機器を片手に客間を調べて回った。
五島はメモ用紙に盗聴器の位置や能力を書いて恭一に渡した。
その結果に満足気した恭一は、頷くと返答のペンを走らせる。
──放っておこう。何かの役に立つやもしれん。
2人は無言で頷いてからバスルームへと消えた。
恭一はバスタブのコックを強くひねった。蛇口から溢れ出る勢いの良い水音が狭い室内に広がった。
これで盗聴妨害は完璧だ。
「で?どこまで分かった」
耳元で囁くような恭一の声。
「先日、分かったのは5年前、東都大学とバージニア州立工科大学が姉妹校として提携した事だ。
その翌年からだ。東都大工学部の予算が飛躍的に増大したのは…」
「それで…?」
恭一はもどかしげな表情を浮かべている。まるで、──説明より結論を知らせろ─とばかりに。
そんな仕草。五島はすぐに気づいたのだろう。