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エンジェル・ダスト
【アクション その他小説】

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エンジェル・ダストF-2

 同じ頃。

 N県M市から数百キロ離れた某所。

「…まったく。ずっと黙ってりゃ死なずに済んだものを」

 暗闇の中、数人の男達が1台のクルマを囲んで立っていた。
 その運転席には、すでに意識の無い女性の姿が見えた。
 クルマの先は崖で、その向こうには黒い海原が激しく波を打ちつけている。

「さっさとやっちまおうぜッ」

 ひとりの男が合図となり、他の男達も1箇所に集まった。声を合わせてクルマを崖の方へと押し出す。
 ジリジリとした地面の重い抵抗音の後、ガクンと前輪が崖向こうに落ちた。重心が前方に掛かる。
 次の瞬間、車体が大きく跳ね上がったかと思うと、クルマは崖の一部を削り落として視界から消えた。
 そのわずか後、鈍い衝撃音が上がった。だが、その後に音は続かず、すぐに最初の波間の音に戻った。

「よしッ、引き揚げるぞ」

 男達は崖下の様子に満足すると、闇に紛れて元来た道を去った。

 その同時刻、別の場所でも同じ様な事が起きてしまった。
 築波大学校内。研究棟の中で、細菌、ウイルスの研究者である椛島が自殺体で発見された。




 防衛省中央司令部

「松嶋を消すのは失敗したらしいな」
「ああ。まったくしぶといというか、強運の持ち主だ」

 小会議室で言葉を交わす佐藤と田中。

「…しかし、ヤツの先手は打った。柴田と椛島からの情報は永久に得られなくしてやった。
 これで、松嶋が核心を知るまでの時間は稼げたはずだ」

 ひ弱そうな体躯に似合わぬ田中の残忍な言葉。否──ひ弱だからこそ、自らの手を汚さない殺人には何の躊躇いもみせないのか。

「ならば、次の段階に進めるべきだな」
「おまえが進める、李を懐柔して松嶋を丸裸にする計画か?」
「そうだ。金は次官の許可を得た。機密費から20億捻出した。これで松嶋を李と切り離す。その後は…」

 佐藤は、深い呼吸をひとつしてから憎しみに満ちた声で云い放つ。

「…アイツをなぶり殺してやるッ」

 サディスティックな表情。その顔から、彼が田中と同類だと分かる。──キル─が好きな人間だと。

「…明日にでもオフトマンを通じて許可をもらおう」
「そうだな…」

 2人はしばらくの間、今後の打ち合わせを繰り返した。互いの意思をひとつにするために。


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