ヴァンジュール〜フライング篇〜-5
「だから、僕は空を翔ばなきゃならないんです! たとえそれが不可能でも! 無理だとしても!」
彼は涙を拭いながら、叫んだ。それは『決意』そのものだった。しかし、その後自信なさげに呟いた。
「でも、僕にはもう……」
「諦めるな! ライト兄弟だって諦めなかったから、『飛行』を手に入れたんだ! だから、諦めちゃダメだ」
「でも、僕は死んじゃったから……」
「日本には輪廻転生という考え方がある。今死んで無理だとしても、次回生き返ったら、挑戦すればいい。それがダメなら、その次試せばいい。何度も挑戦しろ! キミにはそれしかないだろう?」
彼――弥生良太郎はうん、と頷いた。わかってくれた。心に響いたのだ。例えそうでなくても、彼自身が『諦めない』ことを心に刻み込み、常にそれを思ってくれさえいれば良かった。
青葉蓮は机から漆黒の手帳を取り出し、それに――五芒星を描いた同じページに――六芒星を描き、弥生良太郎は笑顔で、ありがとうと言いながら、六芒星の中心に吸い込まれていった。吸い込み終わると、六芒星は回転し、光り、そのページごと消滅した。夕闇に包まれた事務所へと――人間の世界の事務所へと戻って来たのだ。
※※※
青葉蓮はトイレにいた。安心したらトイレに行きたくなった。と影沼楓に言ったものの、実はそうではなかった。めまいのような、どこか体調の悪さを感じたのだ。
トイレに入った瞬間、ずっと我慢していた咳が止まらなかった。口を手で押さえても、止まりそうにない。異物が入ったような拒絶反応に近かった。
ようやく止まったと思い、手を見ると血。そして、血を見た瞬間彼はフラッシュバックを起こし、意識は途絶えた。
※※※
一面には血が溢れていた。自分の手も、服も、景色も、全てが血で染まっていた。
数メートル先には、死体。自分が何度も何度も何度も刺した三つの死体。
全てを無に返そうとした。だが、その結果愛するものをその手で、命を奪ってしまった。
だから、―――――
※※※
ゼロから無限へと収束するように、物語もまた終わりへと収束する。この三人の物語も例外ではない。
闇を抱えた三人の物語も少しずつ終わりへと収束しようとしている……。
To Be continued
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