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ヴァンジュール
【ファンタジー その他小説】

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ヴァンジュール〜フライング篇〜-4

「うん。こよびとこゆびをこうやって、『ゆびきりげんまん。うそついたら、はりせんぼんのまーす』っていうんだって。ままがいってた」

両手を使って説明するものの、少女の説明は要領を得なかった。だが、少年は少女が笑顔で居てくれさえいればよかった。だから、意味はいまいちわからなくても、それに従うことにした。

「やくそくだよ? かならずとんでね」

 少女が小指をさしだした。それを合図のように、少年は頷き、小指を差し出す。そして、小指同士を絡ませ、二人は笑顔で言った。

『ゆびきりげんまん。うそついたら、はりせんぼんのまーす』


※※※

 まさに真っ白な世界そのものだった。なにもかも白で染められ、独特な世界を生み出している。独特な匂いもその世界を作ることを手伝っている。そうここは病院。そこに女性は入院していた。全身からいたる機械に繋がり、女性の手を必死に握っている男にはショックだったに違いない。

「ねぇ、あの時の、約束、覚えて、る?」

 ベッドに横たわる女性は息もたえだえに言った。男はうん、としか言えなかった。男にとって忘れたことはない。幼き日の、『空を飛ぶ約束』は男の中で生きてきた二十年間の中で唯一と言ってもいいくらい忘れることの出来ない宝物にまでなっていた。

「そう、よかっ、た。楽しみ、に、してる、から」

 女性はそう言うと、あっという間冷たくなっていく。男はそれでも手を握り締めた。暖めていたら、彼女は生きかれるんじゃないか。そんな気持ちだったに違いない。だが、男は現実を知った。女性は死んだ。それを知ったとき、男から涙がこぼれ落ちた。ただ、ひたすらに……。一生分もの涙を流すかのように……。

 涙が枯れたとき、男は決めた。たとえ無理だと知っていても、人間には不可能だと気付いても、その約束だけは果たす。それは彼女とのたった一つの『約束』であり、つながりだから……。

※※※

「キミの願いは『約束』を果たしたい。空を翔びたい。それだけなんだね?」

弥生良太郎は驚いた顔を見せた。それもそのはず。自分だけの秘密を、一瞬にして見破ったのだから。

「……そうです。彼女に約束したんです。『空を翔ぶ』と……」

諦めたような表情で言った。それは独白に近かった。

「でも、人間では不可能だと、無理だと知ったんです! でも、彼女が死ぬ前に『楽しみにしてるから』って言ったんです! だから、僕は、僕は……」

良太郎は涙を流した。あの時一生分の涙を流したと思ったはずなのに……。

 青葉蓮は彼を見ていることしか出来なかった。他人に手を差し伸べる資格が無いことを重々承知していたからだ。だから、約束に捕われた男をただ『見る』ことしか出来なかったのだ。


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