「アジアの闇を追え!〜前編〜」-4
「お、盛り上がってるな」
「被害者が発見された時の状況を、いまミズさんといろいろ考えてたんっすよ」
「見つけたのは、公安警察じゃねえかな」
水谷さんがぽつりと言った。
「公安? もしそうなら発見者の情報出せませんよね。じゃトラックの運ちゃんはダミーですか?」
するとデスクが言う。
「被害者が監禁されてたのは泉佐野か? 岸和田から岬公園にかけては北の工作船の着岸ポイントだぞ。去年の秋から公安は北のアジト必死に探し回ってたからな」
「公安が北のアジト探してたら、たまたまガレージの車の中に縛られて眠らされてる被害者を発見した。これでどうだ? 福」
「いや名推理ですけど、もしそうならこの被害者はよほど運がよかったことになりますね」
「万に一つだな。ってことは、その前に運の悪かった被害者が大勢いて不思議じゃないな。いや、いたと、そう考えた方が自然か」
デスクはそう言った。
俺たちはもう余罪と共犯者の存在を確信していた。するとさわやかランチの閉店間際に食事の時間帯が重なり、捜索願の出されている女性の存在が出てきた。水商売の子だった。
俺たちは北川が以前店長を務めていた尼崎まで範囲を広げることにした。するとさらにいろんなことがわかってきた。やはり水商売の子の捜索願が数人出ている。そしてこの尼崎時代に、北川は悪い仲間とのネットワークをつくりあげていた。おそらく実行犯が北川と三橋、その背後に受け取り部隊がいて、流れ作業のようにして何らかの形で被害者を処分していたのではないか? こんなことは考えたくなかったが、不可解なことが多すぎる。そしてこの受け取り部隊には北川達よりも遙かに大物のバックがついている。でなければこんなに必死に共犯者を守るはずがない。
「何ですか? デスク」
その日、俺はデスクに呼ばれた。
「北川には借金があったようだな。どうやって開業資金を捻出したんだ?」
「デスク、北川のはフランチャイジーじゃない、委託なんですよ」
「どう違うんだ?」
「委託はイニシャルコストがかからない。本部持ちなんです」
「そりゃ北川には都合いいだろうが、本部にメリットはあるのか?」
「だから内規があるんですよ。2年間は直営店で勤務して、その成績が優秀で」
「北川がそんな優秀だったのか?」
「なわけないでしょ。評判が悪い上に勤務期間も内規を満たしてません」
「じゃ、なぜだ?」
「北川を強力に推薦した人間がいるようです。まだ確証はないんですが。じつはその人物が、この委託というスキームの推進者なんです」
「誰だ? その怪しげな野郎は」
「社長の息子ですよ!」
もうさわやかランチ社内も混乱しているようだった。IRによると、事件の3日後に浅野常務が大阪府警に呼ばれ、社長が事件を知ったのが4日後となっている。しかし、こんなことはあり得ないと水谷さんがイチャモンをつけた。
「二人は翌日に逮捕されてんだぞ。店が閉まれば物流が止まる。納入業者からすぐクレームがくる。本部に上がってこなきゃいけない売上報告も滞る。警察に呼ばれて気づきましただと? そんな危機管理あるかよ」
「ミズさん、4日後じゃなきゃ具合が悪いんです。だってここの社長、3日後にJFAの理事に就任したんですよ。事件を知ってて就任したんじゃ具合が悪いでしょ」
「そういうことかよ」
「そういやある地方紙は、事件の翌日に即刻北川との委託契約を解除したって書いてましたね」
「事件を知らないのに委託契約を解除したってか? もう何でもありだな」
「福、今度は何のお勉強だ?」
水谷さんがそっと背後から近づいてきて俺の肩を強くもみながら言った。