さよならのラララ-8
「もえこ」
「やだ……抜いちゃ、やだぁ……っ、いいから、いれてよ」
「でも」
「やだよ、もう……いまじゃなきゃ、やだぁ」
駄々をこねる子どものように、泣きながら首をふる。俺の腕を掴む手が小さく震えているのがわかる。
「次なんて、ないかもしれないんだよ。じゃあまた今度って、そんなの、わかんないよ」
弱音を吐かない、嘘をつかない、もえこの、本当。
「明日死ぬかもしれないんだよ。あさってかもしれないし、まだもっとあるかもしれない。けど、もしかしたら一瞬あとには死んでるかもしれないんだよ。私だけじゃないじゃん、みんな、そうだよ。なのに、いやだ。今じゃなきゃやだよ、お願い、けいた、く……」
堪えきれなくなったようにぼろぼろ、ぼろぼろと、もえこの目から涙がこぼれ落ちていく。俺はそれを止める術をしらなくて、どうしたらいいのかもわからなくて、ただ自分の頬にも同じ、伝う雫の感触だけを感じていた。
「いま、いれて。いま教えてよ。私が、いまちゃんと生きてるって、教えてよ」
「もえこ」
「まだ死んでないんだって、いまけいたくんと一緒にいるのが夢じゃないんだって、私の声が聞こえてて、私のことが見えてるんだって……ねえ、まだ生きてるんだよぉ、私、まだ、ここにいるんだって……っ」
今日も陽は昇りそして沈んで、始まりと終わりとに囲まれながら俺たちは死んでいく。どうして明日も生きているだなんて、疑いもせず思えるんだろう。さよならのラララはいつだって俺たちの周りに流れている。ずっと、ずーっと。もう終わりですよ、さよならの時間ですよ、って。
この世に生まれてこの世から去るまでその音楽が絶えることなんて一秒もないんだ。
死ぬことを決められた命。終着点の見える旅路。
じゃあどうして生まれたんだろう。こんな苦しい場所に。
もえこの泣き声をかき消すために、俺はそのまま動きをすすめた。きつくきつく締め上げてくるもえこの中は、俺を拒否しているのか、それとも離すまいとしているのかわからない。ただただ中に押し込んでいくこの行為は快感とはかけ離れているものに思った。まるで、何かの儀式みたいだ。
「んぁあ、あ、ああ、っぁ!」
「っ、もえ……こ」
「ふ、ぅうう、あ、ぁ………」
「……はいった、ぞ」
ゆっくりゆっくり押し入れていた俺の先端が、壁に当たって止まった。そこが最奥だとわかる。
俺の言葉にもえこは痛みを堪えたままの表情で小さく息をつく。