さよならのラララ-6
ややあって地上に戻ったもえこは、荒く肩で息をしながら呼吸を落ち着けている。その様子をもえこに覆い被さるようにした俺は、にやにや笑いながらしばらく見おろしていた。呼吸を整えたもえこがキッ、と俺を睨む。そうして疲れ切った声でぼそりと、
「くそったれ……」
ざまあみろ、だ。
余命を宣告するかどうか、もえこの両親は酷く悩んだらしい。けれど、嘘が嫌いな娘の為に、そして残されているであろう時間を大切に過ごすために、もえこに告げることを選んだ。
「けーたくん、私がいなくなったら、どうする?」
不意にもえこがそんなことを言った。相変わらずいやらしいポーズのままで、上気した頬のままで、けれどその瞳に映る色が現実を俺に思い起こさせる。俺はもえこを上から見下ろしたままで、ぴくりとも動けなくなってしまった。
「……どうするって、なに」
「泣く?落ち込む?ひきこもる?私のこと思い出して、悲しくなったりする?」
なんでいま、そんなこと、
「それですっごい鬱モードはいって、でもみんなにシッタゲキレイされたりなんかして、それでまた前向きになって、元気になって、ご飯食べてトイレ行って寝て、起きたりなんかするのかな」
「そんなこと……」
「死んでみないとわかんないかぁ」
もえこの口から「死ぬ」って言葉がでたことに、俺の心はぐらぐら揺れだした。こいつが、今、目の前で確かに熱を持って笑うこいつが、死ぬ。それももう遠い先の話しではないのだという。
「……忘れて良いよ」
ぽつりと、ほとんど唇も動かさずにそんなことをいう。
「なにいってんの」
「だから忘れて良いよ、私のこと」
「もえこ」
名前を呼んで続けようとした俺の言葉を遮るようにして、大丈夫、ともえこが笑う。
「私は忘れないから、大丈夫」
そのためにだよ、と言った。
そのためにきみとえっちしたいんだ、と恥ずかしそうに笑った。