『六月の或る日に。1』-9
「え、でも別れたんでしょ…?」
「うん。」
「なのにさよならを言っていない…?」
「うん。」
「………え、あの、それは、夏樹が勝手に言って帰ったとか?」
「ううん。ただ、あたしが言えなかっただけ。」
そこまで話すと、とうとう陽子は頭を抱え始めた。
別れ=さよならを言う
この方程式が、陽子の中では絶対的に成り立っているらしい。
「陽子。」
呼びかけると、目の前で頭を抱えた彼女が顔を上げた。
「あのね、ーーーーー。」
*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*
『………な、に。言ってるの……?』
何で今更。そんなことを。
『…ごめん、変なこと聞いて。でもちゃんと、聞いておきたかったんだ。…最後だから。』
夏樹は自重気味に笑った。その目を、寂しそうに細めて。
夏樹もあたしと別れることを、少しは寂しいと思ってくれているのかな。
『……なんで、そんなこと聞くの?』
けど、答える前に、理由が知りたかった。
だって夏樹にはもう新しい彼女がいるのに。
あたしとはしなかった、同棲までしている子が。
なのに、何を今更。
それに、そんなことわかりきっていることだと思ってた。
聞かれなくても、わかりきってることだと。
だからあたしたちは、こんなに長く一緒にいれたんじゃないの?
違うの?夏樹。
『………ごめん、やっぱ…いいや。』
すると夏樹は、その理由を言いたくないのか、力なくあたしの腕を放した。
あ。
と思った。
とっさに、言葉がでていた。