……タイッ!? 第一話「守ってあげタイッ!?」-7
「あ、うん。でも、暗いなら送っていくよ。なにかあったら大変だし」
本来の目的を思い出した紀夫は絡まるラダーを放り出し、彼女を制止する。
「何いってんの? マネージャー君がいたほうが危ないじゃん。男は皆狼でしょ?
それとも、マネージャー君は男の子だから違うの?」
一瞬何を言っているのかわからなかった。
彼女からしてみれば自分は男子であり、男の子であり男のはず? いや、つまりはそういうこと……。男の子としか見られていないということで、怒ってもよい内容……。
「なんだよ、人がせっかく心配してるのにさ! もう、後は僕がやっとくから帰れば!」
今日半日分のフラストレーションを爆発させた紀夫に、理恵は少しだけ驚いて見せた後「じゃ〜ね〜」と気の萎える挨拶を残して去っていく。
――なんだよ、人がせっかく心配してるのにさ……。
純然たる善意とは言いがたいが、彼女との帰り道になにか期待をするほど彼は温かい思考の持ち主でもない。
――大体、僕だって好きこのんで伊丹さんなんか送るかっての。
栗毛のポニーテールがトレードマークの伊丹理恵。スタイルはそこそこ、お尻がキュートに丸く、走るたびにブルマが捩れ、たまに違う色の布地が見えたりする。
周囲に気遣う様子なく直したと思ったら、近くに居る男子に「えっち」と呟く彼女。ウザイと思われないのは、その容姿と愛想笑いにあるのだろう。
――伊丹さん、結構可愛いよなあ。んでも、彼氏いたんだし、さっきのこと考えると、非処女なのかな? あはは、何考えてんだろ……。
絡まった網を解き、ついでにネットをたたむ。細かい作業は得意ではなく、明かりの少ない倉庫ではかなり面倒な作業だった。それでも無口でいると怒りも徐々に収まり、頭に上っていた血も次第に降りてくる。
作業が終りに近づくと、今度は先ほどまでのやり取りが再生され、自分の沸点に低さを嘲りたくもなる。
――僕もまだまだだなあ……。
倉庫のドアを閉めたら鍵は開け放しておく。まだ男子部員が残っているし、サッカー部も練習を続けている……が?
――あれ、男子部員達誰も居ないや……。
今閉めたばかりのドアを開け、用具を確認する。よく見ると男子部員の道具もすでに収納済み。となると、すでに活動は終わっているわけで、今は部室で……。
――まずいよ、そんなの!
ドアを乱暴に閉めると、四月の体力測定以来久しぶりとなる短距離走を行う紀夫だった。
**――**
理恵がロストヴァージンをしたのは、実はつい最近の話。
中学の頃から付き合っていた彼氏と春休みの終りに肌を重ねたのが初めてだった。
最初は身体が裂けるほどの痛みを覚え、彼氏に憚ることなく泣き出してしまった。
個人練習と称して自慰を行うこと週二回、それなりに快感を覚えるようになっていた。
リベンジに燃える理恵は新品のコンドームとお気に入りの下着を身に付けていざ彼の元へと走る。しかし、彼の部屋で見たものは自分よりも数十センチ長い黒の髪の毛。彼氏に姉、妹がいないことから、彼女は浮気に気付いてしまったのだ。
いてもたってもいられなくなった彼女は、彼がシャワーを浴びている隙に抜け出した。
当然その胸中は複雑だった。そして、疼く気持も……。
非処女の友人の言う気持ちの良い幸せなエッチがしてみたかった。
だからだろうか?
悟たちのみえすいた手口に乗ったのは……。
部室に荷物を取りに行ったとき、悟に声をかけられた。
彼は先生が呼んでいたからと手招きし、そのまま視聴覚室へと誘う。
明かりも無く、カーテンが引かれた教室には誰も居らず、その青臭い下心が容易に見て取れた。
背中を押され、中央によろけると、背後でドアの閉まる音がした。