……タイッ!? 第一話「守ってあげタイッ!?」-5
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――応援してあげてもいいよ?
補習授業もそこそこに先にグラウンドへと向かった彼だが、胸中には理恵の言葉が渦巻いていた。
応援というのはつまり、二人の間を近づけること。
とはいえ、理恵にそんなことができるのだろうか? 彼氏に二股をかけられる程度の恋愛技術でしかない彼女にそれほどの要領があるとも思えない。
――バカバカしい。何を期待してるのさ。そんなことより香山さん、大丈夫だよね?
放課後のまだ日も落ちていない時間帯。部室棟も人の出入りが激しく、衆人の目が届かない場所など無い。それにグラウンドを見ればペースを保ちながら走る彼女の姿がある。隅っこでは男子部員達が筋トレをしており、特に心配することなどない。
――取り越し苦労なんじゃないかな?
確かに倉庫の一件はあるが、平穏な練習風景をみているとそれも見間違いなのかもと思えてくる。
「……遅いぞ、マネージャー」
振り向くと綾がタオルで汗を拭きながらやってくる。
「ゴメンなさい。ちょっと補習があって」
「アンタが補習?」
「いや、伊丹さんのをちょっと……」
「ふーん。でもそれはアンタの仕事じゃないでしょ? ダメよ、甘やかしちゃ」
「ご、ごめんなさい」
強気な綾にはついつい下手に出てしまう。というか、自分より頭一個背の高い彼女に射すくめられると、変な汗をかいてしまう。
「マネージャーはさっさと洗濯物干してきてよ。部屋干しすると臭うから気をつけてね」
「あ、はい……」
すっかり雑用に成り下がった彼は、ベンチに溜まっている洗濯物をカゴに詰め、部室棟脇にある洗濯場へと向う。
「ん? あ、あたしのはいいよ」
綾はカゴの中から自分の使っていたタオルとユニフォームを奪うと鞄に無造作に詰め込んでしまう。
「え、別にいいですよ? 手で洗うわけじゃないし、そんなに気を使わなくても……」
「いいんだってば、あたしは自分で洗うの!」
真っ赤になって言い返す綾はいつものクールな面影が見られず、不自然な必死さが伝わってくる。
「そ、そう……」
素性を知らない男子に洗濯物を預けることに抵抗があっても不思議ではない。事実、部員の何人かは自分で洗濯していた。
ただ、ユニフォーム、特に短パンはともかく、タオルまで拒む理由がわからない。
そもそも部の備品であるタオルを一つだけ別に洗うとういうのは非効率だった。
「おーい、島本―、こっちも頼むわ〜」
男子部員の稔がタオル片手に走ってくる。
「すげー量、運ぶの手伝うわ」
「あそう? 悪いね」
もともと男子部は管轄外だが、彼等を監視するという裏任務を持つ紀夫には都合が良く、敢て頼むことにする。
「ねえ、最近どうかな?」
ただし、話題を振るスキルがあるかは別のこと。稔とはクラスが違い、普段の様子をお互い知らず、当然ながら陸上について盛り上るほどの知識も無い。
「最近? いや、別に……つうか、まだ俺らも一ヶ月そこそこだし、どうってことばかりじゃないかな?」
それでも爽やかに笑う彼はそこまで悪い印象はない。もちろん、彼も例の手淫のメンバーの一人だが……。
「そっか。そだね」
「あ、そういえば何で島本は女子部なんだ?」
「え? それは、その……香山さんに頼まれて……、人手が足りないからってさ、ほら、先生、あんまり運動詳しくないみたいだし」
ウソをついたところでばれてしまう。それならいっそ真相の半分を話すことにする。