……タイッ!? 第一話「守ってあげタイッ!?」-3
「馬鹿言わないでよ。こいつなんかと何もないわよ。ただのマネージャー。それだけだってば!」
あまりの物音に周囲の生徒も食の手を休めて彼等のほうを見る。
「……あ、いや、だからその、あたしと島本は別にそうなんじゃなくて、ただ都合の良いマネージャーだからって……」
里美は俯き加減で小声になり始める。
「ふーん。そうなんだ。ホントに?」
「ホントよ……。ああ、もういいわよ。島本、あとお願いね」
一体何がお願いなのか不明だが、彼女は自分のトレイも片付けずに、学食をあとにする。
「あ、香山さん……」
展開的につい追いかけようとする紀夫だが、裾を掴む理恵に止められる。
「ん? 何? 伊丹さん」
「なんでもないんでしょ? 追いかけなくていいじゃん」
なんでもないといわれれば確かにその通りだが、改めて意識すると切なさに似た涼しさが心に訪れる。
才能のある彼女を助けたい、力になりたい。そんな裏方的精神がどこか否定されたような気にもなるわけで……。
「別にいいじゃん。ほっとけばさ。それに君は雑用二号でしょ?」
「雑用二号って……。あれ? 一号って誰?」
「えっとあいつよあいつ、先輩について回ってる奴」
先輩は複数いるが、それらしき人はいない。三年生はすでに引退をしており、もしかしたら二年生の誰かなのかもしれない。
「まあいいや。それよりさ、マネージャー君、ちょっとお願いしていい?」
引き止めたのはどうでも良い疑惑の追及ではないらしい。
「まあ、マネージャーですし」
「補習、手伝ってくれない?」
拝むように手を合わせ、にっこりと笑いながら首を傾げる理恵の頼みなど、マネージャーでなくとも断れるはずが無かった。
**――**
人には向き不向きがある。
自分は運動が苦手。その分勉強をがんばればいい。
その結果は四月最初の実力テストで如何なく発揮された。
一学年三百ニ十四名中二十一位。男子だけで見れば十二位と健闘したもの。
それもそのはず、彼の実力からすれば桜蘭高校は一ランク下のレベル。
周囲からすれば受験に失敗した。志望校に落ちた。そう見えたかもしれない。ただ本人にしてみれば、狙ってのこと。
中学の頃テスト前だけ擦り寄られることの多かった彼は、都合の良い友人と縁を切りたかった。
――きっとこの先も利用される。
中学生ならではの逼迫した問題に彼なりの答えを出したつもりだった。それに「女子ならそこまで男子に話しかけないだろう」という予想があった。ただし、彼の中学では手を繋ぐ男女など皆無に等しく、それを「高校でもそうなのだろう」と甘い見通しを元に立てられていたわけだが……。
「……んでね、充ったらさ、あたしにコクっておきながら、山陽校の子とも付き合ってたの。わかる? 二股されてたんだよ?」
「ふーん……そうなんだ。んでもさ、それとこれ、関係ある?」
補習教室の隅で机を寄せ合う紀夫と理恵だが、本来問題集とにらめっこするはずの彼女は眉のお手入れに精を出し、最近別れたらしい彼氏の愚痴を語る。
「大問題じゃない! 青春を生きる乙女の純真が踏みにじられたんだよ? もう、マネージャー君は女心がわかってないの?」
さも大事に言う彼女だが、補習授業の重要性が分かっていないらしい。