プラトニックラブ2-2
あの男…小林が私の部署に配属されたのは三ヶ月前のことだ。
入社した当時から営業課にいた小林は、営業先での失態が多く、それを見かねた上司が移動させたのだ。
小林は私の部署に移動することがかなり嫌だったらしく、当初から私に対する態度が良くなかった。
小林は私を軽蔑の目で見つめる。
私に軽蔑の視線を送るのは小林だけではない。
私の部署のほとんどの人間が私を汚いものを見る目で見る。
なぜならば―…
「どうだ。ちゃんとやってるか」
聞きなれた声が耳元で聞こえる。
私がいつも聞く特別な声とは少し違った声。
肩に置かれた手には見慣れた指輪があった。
「なんですか?」
私はパソコンから目を離さずに言った。
「冷たいな。部下の様子を見にきたんだよ」
耳に男の低い声がまとわりつくように入る。
周囲の者が冷たい視線を私に向けはじめた。
私はキーボードを打つ手を止め、振り返った。
シワひとつないスーツを着こなした阿住が私の前に立っていた。
「サボりにきたんじゃないですか?」
私が言おうとしたセリフを亜季が笑いながら言い、いれたてのコーヒーを阿住に渡した。
阿住は目を細め私を見る。
「今、同じことを言おうとしただろ」
阿住は小さく笑ってコーヒーを飲んだ。
かつてはこの男の笑った顔が好きだった。
「阿住部長。それより、彼を何とかして下さい」
亜季が小林をチラリと見ながら阿住に言った。
私も小林の方を見る。
さっき直すようにいった資料には全く触れずに、パソコンに向かっている。
「なに、彼がどうしたの?」
「ミスがすごい多いんです。返事もしないし…桜田先輩彼のフォローで大変なんですよ」
ペラペラと亜季が喋り始めたので、私は苦笑いをした。
目の前にいる阿住と目が合う。
阿住の目は笑っていた。
「今日だって…」
「もういいのよ」
夢中になって話す亜季を制止して、私はパソコンに向かった。