クリスマスの幻惑 -5
クリスマスの朝、身に染みるような寒さで詩織は目覚めた。すぐに昨夜のセックスを思い出した。「なんてリアルな夢だったんだろう」詩織は思わず声に出し、起き上がった。
全裸だった。
パジャマはベッドの下に裏返って猫のように丸まっていた。ショーツは部屋の隅に、毛布はよじれベッドの片隅に寄っていた。夢じゃなかった。詩織の肌にセックスの感触がまざまざと蘇り、突然幻のセックスが現実になって押し寄せてきた。詩織はベッドから降り、部屋の片隅の姿見の方に行った。乳房はいつもより張っていたし、足の間はヒリヒリと焼け付くようだったがいつもの詩織の体だった。ぐるりと回って体全体を映し出そうとした時、耳の後に赤い物がちらりと見えた。詩織は首を傾け、鏡を覗き込んだ。
赤いうっ血した痕。男の唇が残した契約。それは女が男に所有されているということを表す印。
頭が真っ白になり、天井がゆっくりと回転した。かろうじて床に倒れこまなかったものの、床に膝をついた。ふと胸に手を当てると、乳房は氷のように冷えきっていた。
あれは夢ではなかった。もちろん判ってたはずだ。ただの欲求不満から来るセックスの夢ではなかったことくらい。でも一体どこまでが現実だったんだろう。あれはこの部屋に憑いているものなのかしら。それとも私に憑いているものなのかしら。そもそも彼は何者なのかしら。まさかサンタクロースがプレゼントの代わりに素敵なセックスをプレゼントしてくれたとでも?詩織はいつまでも鏡の中のキスマークを呆然と眺めていた。
夕方になり、詩織は食事も取らずに座り込んでいた。昼間は精神を病んでいるのではないかという気がしたが、この異常なセックスを医者にたとえ精神科の医者だとしても、うまく説明する自信は無い。呆然としている間に時間は刻々と通り過ぎ太陽の光が弱まり窓からサーモンピンクの夕日が差し込んでくると、昨夜のセックスがますます現実味を帯びて、記憶の中にぬらぬらとした鮮明な感触として蘇った。詩織は自分でも信じられなかったが、朝の不安や恐怖がじわじわと蝕まれていくのを感じた。
月が満ちていくように、ゆっくりと下腹部とその奥で渇きにも似た欲望が蠢くのを抑えられなかった。
彼は今夜も来るのかしら。
夕暮れからそのしつこい疑問が何度も湧き上がって、体から熱い湯気が立ち上り、詩織の手は無意識のまま腹部をさまよい茂みの中に潜り込んだ。
「彼は今夜も来るのかしら。」
疑問をベッドの壁に向かって問い掛けた。自分の指で膣をなぞりながら彼の抱擁を、キスを、指を思い出し詩織はわずかに喘いだ。彼自身が入ってくるときの圧迫感を思い出すと体が震えた。彼が何者でなぜ詩織に近づいたかなど、詩織には関心が無かった。彼が命を求めるのなら歓んでささげよう。彼の命令があれば何でもやります。だから……