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DEAR PYCHOPATH
【サイコ その他小説】

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DEAR PSYCHOPATH−11−-3

 漆黒の闇が落ち、夜がやってきた。僕はまだ、主人をなくした部屋の中で一人たたずんでいた。外は月が出ているのだろう。うっすらとした金色の光が、開いている窓からそっと忍び込み、壁にかけられた時計を照らしている。もう少しで十時だ。
僕はうつむきがちになって、まつ毛を伏せ、鈴菜のことを思った。何の関係もない鈴菜まで巻き込んでしまうなんて、自分のふがいなさにつくづく腹が立つ。
 「鈴菜、ケイコさん、必ず助けてやるからな」
 壁づたいに立ちあがり、歯を食いしばる。
 「待っていろ。エド・ゲイン!」



 七丁目の高橋家。なるほど、確かにそこは見てすぐに分かる程の大豪邸だった。
入り口の両端には大きな門があり、それをつなげるように柵がついている。正面には芝生を敷き詰めた庭と、その真ん中には大きな池・・・中には鯉か何かいるのだろうか?そして玄関は左手にあった。扉の中央にはとっ手をくわえたライオンの顔がある。どう考えても、ホラー映画で出てくるような洋館にしか見えない。
 僕は大きく息を吸い、吐くと同時にノブを回した。家の中には静まり返っていた。明かりも一つもついてはいない。ただ窓の数が異常に多いため、差し込む月明がおぼろげに辺りを照らしてくれている。慎重に辺りを見回す。すぐ近くの壁に何かが書かれているのが見える。目をこらすと、そこにはこう書かれていた。
 『上へ』
 「上?二階か」
 土足で家へあがり、階段のてすりへ手を伸ばす。
 呼吸さえためらいながら、ゆっくりと一歩進む。ミシリときしむ音が、僕の寿命を一年くらい縮めるような気がした。階段は折り返しになっていた。一段一段、まるで爆発物をとり扱うような心境だった。やっとのことのぼり詰めると、左手にドアがあった。耳をすますと、中から何か物音が聞こえてくる。この家に入って初めて、人の気配を感じた。多分、いや確実に彼はここにいる。そしてあの二人も。恐る恐る部屋の中へ入ると、すぐに彼らがどこにいるかが分かった。部屋の中には家具らしき物は何もなく、ただっ広い空間だけが存在していた。そして奇妙なことに、開いたドアからはじまでは、一列に並んだ畳のように白いタイルで敷き詰められ、その他は全て、白と黒のタイルが交互になっていた。まるでチェスの盤のようだ。三人はその盤の先に座っていた。ただし、エド・ゲインは優雅なウインザースタイルの椅子に、残りの二人は両手両足を縛られ、タイルの上へじかにであるが。
 「ようこそ。僕の城へ」
 彼は月明かりを背に、不敵な笑みを浮かべながら言った。気のせいだろうか、あの燃え盛る炎の中で見た時よりも、その表情はやや豊かに感じられる。
 「二人を返してもらうぞ!エド・ゲイン」
 「ええどうぞ。ただしそれは僕に勝てたらですよ」
 「勝つさ」
 僕が一歩踏み出したところで、彼の手があがった。
 「それ以上進まないでください。死にたいんですか?」
 「この床、妙だと思いませんか?白と黒のタイルなんて。ねぇ、そうでしょう」
 「?」
 エド・ゲインはあごをしゃくりながら言った。
 「ゲームをしようかと思いましてね。実はあなたたちをかまわなかったのは、これを作っていたからなんですよ。さすがに疲れましたよ、たった一人でこれをやったのですからね。さてと、ゲームの内容なんですが、いたって簡単です。このタイルの内、幾つかには爆弾が仕掛けてあるんですよ。地雷というやつですか。
しかし結構強力でね、この部屋を全て吹き飛ばすだけの威力がある」
 僕は目をむいた。爆弾だって?こいつ一体何を考えているんだ。
 「勿論仕掛けていない場所もあります。これでもう分かったでしょう、このゲームはあなたの勘を試すゲームです。僕を倒し、この二人を助けたければ、見事埋め込まれたトラップを抜けてくるしかありません」
 「何て奴だ」
 僕は歯を食いしばり、彼に精一杯の睨みをきかせた。だけどどうする?どうやってこの場をきり抜けたらいい?彼の言っていることは本当だろう。だから困るのだ。これが嘘だったなら、どれだけいいか。
 「どうしました?来ないんですか?」
 僕は鈴菜とケイコさんへ目をやった。二人ともガムテープで口をふさがれているため、言葉は発せられない。今の僕に頼れるものは何もないのだ。
 もう一度足元を見る。
 「だれだ、どれが爆弾の埋まっていないタイルだ」
 緊張と焦りで額にジットリと汗が滲むのが分かった。鼓動は早くなり、息も切れ切れに繰り返される。気を抜くとそのまま倒れてしまいそうだ。
 「悩むでしょう」
 エド・ゲインは楽しげに言った。


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