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バッドブースター
【学園物 官能小説】

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バッドブースターU〜姉とメイドと心の浮気〜-9

 人気の少ない、佑助の家からさほど遠くない道路を、藍は歩いていた。
 距離はないし、藍はもう走ってはいないのだから、もしあの後真っ先に藍を追い掛けてきているのなら、今独りでいるなどありえない。
(綾子さんの方へ行ったんだ……)
 そう思うと、胸が鉛になったかのように重くなる。
「なんで……来てくれないの」
 それでも、待っていた。
 それでも、期待していた。
 佑助が追い付いてきて、強く抱き締めてくれることを、そう思うと、彼が走ってくる足音の幻聴まで聴こえてきた。
 しかも、こんなにはっきりと……
「み、見つけたーー!」
「え!?」
 幻聴ではなく足音は本物だった。
 佑助は、間違いなく、こっちへ向かってきていた。
 顔は真っ赤で、体はフラフラで、息はゼーゼーいっていた。
 いくら彼が帰宅部で体力ないとはいえ、こんなにボロボロになるというのは、やはり先に綾子を追ったのだ。
 藍は、走り出した。
 佑助から、逃げるように。
「ち、ちょっと! なんで逃げるの!」
「だって、綾子さんを選んだんでしょ!」
 佑助が走りながら訪ね、藍も走りながら答える。
「そうだよ! でもそれは――」
「いい! 言い訳なんていい!」
 やはり、どうであれ、真っ先に追ってきてほしかった。
「まて!」
「いや!」
 体力の限界である佑助は、徐々にペースが落ちていき、だんだんと藍との距離が離れてゆく。
 このままではまずい。佑助は思った。
 ここで藍を捕まえられなかったら、もうずっと届かない気がした。
(言うしか、ない)
 人気が多くないとはいえ、さすがに恥ずかしい。が、そんなことは言ってられない。いや、どうだっていい。
 ただ、藍が、立ち止まってくれさえすれば、なんだっていいのだ。
 佑助は足を止め、息をひとつ大きく吸い、かすれた声で絶叫した。
「藍、訊けぇぇぇぇぇぇ!!」
 買い物帰りのおばさんが、バイクの運転手の男が、単語帳を視ていた女子高生が、驚いて佑助を見る。
「中途半端はいやだって言ったよな! だったらここで言ってやる! 宣言してやる!」
 手の届かない距離。どんどん離れる距離。その中で、彼女に届く言葉を、佑助は直感的に悟っていた。
 藍も、驚いて立ち止まる。
「俺は、お前が――」
 もう、佑助には、藍しか目に入らない。
「絶対、絶対、大好きだぁぁぁぁぁ!」
 言った。
 言い切った。
 茜色が全てを支配する六時十二分。佑助の叫びは、世界に響いて――藍に、伝わった。
「ううっ……佑助君、佑助君、ふぇぇぇぇ……!」
 藍は、その場にしゃがみこみ、人目も憚らず、泣いた。
 佑助は、よろよろとしながらも、藍に近付き、その体を両腕でつつみこむ。
「バカで、ごめん……」
「私こそ、わがままで、ごめんなさい……」
(今日は、人を泣かせてばっかりだ…)
 佑助は、心中で呟く。
 周囲から、何故かささやかな拍手が起こる。それを始めとし、口笛や冷やかしが巻き起こる。
 佑助は、いつのまにか増えている衆目に、自分達が晒されていることにようやく気づいた。
 ここを立ち去る旨を藍に伝えると、彼女は立ち上がった佑助をじっと見つつ、両腕をさしだした。
(抱っこしろってことかよ)
 わがままでゴメンってさっき言ったくせに……とは口にしない。
 よっ、と藍をかかえあげると、
(ぐっ――!?)
 自分の少ない筋力と、ガタのきた身体では、正直かなりつらいものがあった。
 その様子を目撃していた周りからは、クスクスと忍び笑いや、「ほら、頑張れ男の子」とどっかで聞いたことのある声が飛んできたり。
 いたたまれなくなった佑助は、藍を『お姫様抱っこ』したまま、頭をさげ、
「どうも、おさわがせしました」
 と周囲に言って、逃げるように(といっても、もう走ることなどできない)その場を後にした。

 家の前までどうしてあのお姫様抱っこでたどり着けたのかは、本人である佑助にもわからない。
 そして、玄関先。
 栗色の髪の女性が、そこに立っていた。
 近藤綾子だった。
 赤く充血した目。虚無感の漂う体。
 それでも、彼女は、
「お似合いね、お二人さん」
 お姫様抱っこされる藍を見て、精一杯強がってみせる。
 藍は、佑助を渡すまいとするかのように、佑助の首にまわしている両腕に力を込める。 視線を藍に向けたまま、綾子は佑助に話しかける。
「自転車、ありがとね……足は、もう大丈夫だから」
 そのまま、この場から立ち去ろうとする。佑助は、何も言えなかった。
「また、来るね。今度は、姉として……」
 姉として。
 その言葉に含まれた意味を明確に感じとり、佑助は、
「また、ね」
 ようやくそれだけを言った。


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