「穴」-5
「はぁ・・・はぁ。」
久しぶりの心地よい脱力感を感じながら、なおも力を失わない自身は、さっきまでの硬さを保ち、主張を続けている。
(・・・彼女は?)
自らの限界に覗きこむ体勢でいる余裕はなく、彼女が絶頂を迎えたであろう瞬間は見ていない。
だから、ふと、その後の様子を知りたくなり、何気なくまた穴を覗いてみた。
「ひっ!」
僕は思わず後ろずさって、その勢いで尻もちをついてしまった。
穴のむこう、さっきまでベッドの上で淫猥なショーを繰り広げていた彼女が、今は穴の目の前に座って、こっちを見ていたのだ。
「あなた、新しいお隣さん?」
壁越しに彼女は声をかけてきた。
「今、見てたでしょう?」
壁越しの声は、あまりはっきりは聞こえないが、怒っているふうではないような気がする。
「い、いや、僕は・・・」
この期に及んで僕は言い訳しようと口を開いたが、うまく言葉が出てこない。
「ふふっ、前をそんなふうにしながら言い訳してもバレバレよ。」
しまった。
僕の股関では、まだ自身が満々と主張をしたままになっている。今度は逆に彼女がこちらを覗いているようだ。
「ねぇ、こっちに来ない?私一人じゃイケなくて・・・一緒にイこう?」
甘い誘惑。
女の、こんなに甘くて官能的な声を、僕は聞いたことはない。
「・・・でも、さっき・・・」
「ほら、やっぱり見てたんじゃない。許してあげるから、こっちにいらっしゃい。」
彼女がクスクスと楽しそうに僕を呼ぶ。
「ねぇ、一緒にイこう?」
彼女の声は、僕の思考回路を甘くとろかすようだ。
もう、彼女の声しか聞こえない。
「玄関の鍵はは開けてあるから、ね。」
僕はいつしか、フラフラと玄関へむかっていた。
熱に浮かされたように、靴も履かずに外へ出ると、僕の目に映るのは彼女の部屋の入り口だけ。
ここを開ければ彼女が待っている。
彼女が僕を待っている・・・
「開けてはいかん!!」
僕がドアノブに触れた瞬間、後ろから叫び声がした。