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「穴」
【ホラー 官能小説】

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「穴」-6

「その扉から離れなさい!」

大家さんが険しい表情で僕の手を掴み、彼女の部屋の扉から引き離した。
そのまま、大家さんは僕を引き連れていく。

「あ・・・僕・・・。」

「いいから・・・ついてきなさい。」

あの優しそうな大家さんが、こんなに血相を変えている。彼女が大家さんに知らせたのだろうか。
僕はだんだんと頭がはっきりしてきたのと同時に血の気が引いた。

「さぁ、入って。」

大家さんは、アパートのすぐ隣の自分の家へと僕を招き入れた。

「・・・はい。」

僕はどうなってしまうんだろう。
引っ越してきたばかりで、アパートから追い出されるのだろうか。
まさか、警察に突き出されるんじゃ・・・

大家さんは何も言わず、厳しい表情を崩さずに、僕を客間まで通した。

「・・・君にはアパートを移ってもらう。」

やっぱり・・・僕はうなだれていた頭をゆっくりとあげ、呆然と大家さんの顔を見た。

(・・・え?)

その顔は僕よりも青ざめていたのだ。何かに怯えているようにも見える。

「すまない・・・君にはすべて話そう。」

それから、大家さんはゆっくりと口を開いた。

「君の隣の部屋だが、あの部屋は今は誰も住んでいないんだよ。」

「・・・え?」

僕ははじめ、大家さんの言っている意味が分からなかった。

あの部屋には、彼女が住んでいるじゃないか。

「昔、あの部屋には君と同じ大学の女の子が住んでいたんだ。だが・・・。」

大家さんは遠い目をして、僕に話した。

十数年前、あのアパートに住んでいた、ある一人の女性が、自分の部屋で自殺をした。

彼女は僕と同じく、大学に通うため、地方から出てきた人だったそうだ。
はじめての一人暮らしで、しかも知らない街に、初めのころはだいぶ不安がっていたらしい。しかし、隣に住んでいた一つ年上の男が何かと相談にのるようになってから、彼女は少しずつ馴染んでいくことができた。
そうして、その男としだいに仲良くなり、彼女が2年生にあがる頃には付き合うようになっていたそうだ。

だが、その男は女癖の悪い男だった。

すぐ隣に彼女がいることが分かっていながら、男は部屋に女をよく連れ込んでいたらしい。
女は毎回違ったそうだ。
彼女はそのたび、隣の部屋から聞こえてくる声で気づいていたのだろう。
ある日、男が彼女の部屋を訪れてみると、彼女は男との部屋の境の壁に背をもたれる格好で手首を切って死んでいたそうだ。


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