イヴの奇跡V-6
『どうした?何か…』
腕を掴み自分の方へと振り向かせる神崎。
『いいえ、ただ少し体調がよくないだけなので社長はお気になさらずに。』
魅音里を振り向かせると彼女はもう普段と変わらない笑顔で神崎にそう言った。
『ん…ならいいが…大丈夫か?なんなら半日有給を使って帰宅しても…』
自分の考え過ぎかと思いつつ神崎は有給使用の提案を持ちかける。
『いいえ。大丈夫です。社長のためにもすることは山程ありますので…』
とゆうのは冗談ですが、と付け足し彼女はいつものように明るく笑う。
『痛み止めも所持してますし帰宅時間までもうさほどありませんし…大丈夫ですよ。私、丈夫なのです♪』
両腕を上げて元気のポーズをする魅音里。
そして神崎の耳元にヒョイと顔を近づけた。
『ホラ、イヴちゃん一人で可哀相ですし早く戻ってあげて下さい♪あと、イヴちゃんにまた近々行くので宜しくお伝え願います♪』
そして、失礼しますと言い残し魅音里は社長室へと繋がる廊下を歩いて行った。
*
魅音里と別れて神崎は社長室へと戻った。
扉を開けると薄暗い部屋にある巨大な窓ガラスから見える景色をイヴは眺めていた。
巨大な窓ガラスに映される空は既にオレンジと深い青が入り交じる色となっている。
『もうこんな時間だったのか…』
神崎はふと自らの腕にしてある腕時計を見つめる。
アナログなインテリ時計は18:00を指そうとしていた。
『綺麗だよね。一生懸命、自分達の手で作った星なんだね』
『そうだな。人工的な星…とでも言うべきか?』
イヴの背後に立ち窓ガラスに腕をつく神崎。
『けぇ…?』
甘ったるい声でイヴが神崎の名を呼ぶので神崎はイヴを見下ろす。
薄暮時独特の光と影がイヴを怪しく輝かせる。
潤んだ瞳が神崎を捕らえる。
紅潮した頬が神崎を魅了させる。
『私…夜まで待てない…』
そう言うと少し背伸びしてイヴは神崎に口付けをする。
先程の魅音里への自分の後ろめたさを振り払うようにイヴは深く深く神崎に口づけをした。
魅音里は神崎の秘書的役割を担う者でもあり、この会社では副主任を勤め、そして、イヴの家庭教師だ。
魅音里はいつだって優しくイヴに接してくれている。
勉強や世の中のこと以外にも女性である上でのマナーや料理、洗濯などもイヴに優しく丁寧に教えてきた人だった。
イヴはそんな彼女が大好きであり、魅音里もまたイヴを妹のように思っている。