けんぽなし〜カット〜-3
ー痛っ…
「砦(さい)!!」
ー!!っえ…
「…っーどけっ!!」
砦は私達を押しのけると、凄い勢いで走り去って行った。
「こらぁっ!!待ちなさいっ!!」
その後を追うように店員が店から飛び出してきた。
砦を見失った店員は舌打ちをしながら戻って、
「スミマセンでした」
ぶっきらぼうに私達に頭を下げると、店に戻ったいった。
ー…何……?…
「万引きでしょ〜…」
私の思考を察したように、円が言った。
「え…?」
ーそんな…
「あんまりいい学校だったとは言えないんだよね〜…私達の中学…」
太一の家に戻ってきた私達は、今日あったことを太一と空に語った…
「私と絵梨沙と砦…が、同中だったんだけど…本当に、あまりいい学校じゃなくて…」
円は、言葉を選んでいるかのように、ゆっくり、ゆっくり話す。
「…絵梨沙は…何度かリストカットを繰り返してて…砦も…ちょっと悪い子達と一緒にいたし…私も…」
円は、そう言うと口ごもり、うつむいてしまった…
「…ネットいじめとか…結構あったし…みんな…誰も信じられなかったの…」
それでも、話を止めない円…
円のブログの一文が思い出される…
………助けて……
あの頃は…
保育園でのあの頃は、やっぱり色々あったけど、それでも私達は楽しかった…
一緒に笑って、一緒に泣いて、一緒に遊んで、泥だらけで、慰めあって、励ましあって、応援して、喜んで…
あの頃のように、みんなで笑い合いたい…
そう思うのは…
難しい事なのだろうか…
星野 砦(ほしの さい)
四人兄弟の末っ子で、いつもにこにこしてて、争いがきらいで…
そんな砦が、万引きをしてるなんて…
私はどうしても、どうしても信じられなかった…
中学での事を語った円…
もしかしたら円も私と同じように、何も出来なかった自分を責めているのかもしれない…
私が太一に感じてた思いを、背負っているのかもしれない…
翌日、私は絵梨沙の病院へ来ていた。
「何?明日はもう退院なんだけど…」
絵梨沙は私をチラリと見て、手にしていたマンガに視線を戻した…