ネコ系女 #3-3
「そう、だな。一之宮は少し騒がしい奴だからな。お願い出来るか?」
「はい!」
私は頷いて急いで売り場へ向かった。
入ってすぐ右側にある包装やデコレーションをする台の上にケーキを置いて姫代を見た。
「姫代!?どうしたの!?」
入り口付近で姫代はペタンと尻餅をついている。
「あ、朝希!ごめん、何でもないの!ただビックリしちゃっただけで!」
慌てて立ち上がりスカートをパタパタと叩きながら、姫代はそう言った。
「ビックリって何に…」
姫代を見つめながら、もう一つ動く人物を見つけた。視界の隅のそれにゆっくり視線を這わせてゆく。
今度は私が尻餅をつきそうになった。
なぜならタマが…。
タマが窓にベッタリと張り付いて手を振っていたからだ…。
姫代とタマがお互いにペコペコと頭を下げあって、もうどれぐらい経つだろう。
その間に私はケーキをショーケースに並べ、加納さんからシュークリームを受け取りそれも並べ、朝の日課であるそれぞれのケーキの元々の個数を記帳した。
普通ならそれを二人で分担して同時に行っていくのだが、今日は一人で黙々とこなした。
加納さんは基本的に売り場には出てこない。なので、タマには目もくれずひたすら仕事をこなした。
【ネコ系女は要領が良い】
それでも二人は謝り続けていた。
「すみません!本当にすみません!」
「い、いえこちらこそっ!俺があんなとこにいたせいで…」
「いやいやいや!!私、お客さんに対して腰抜かすなんてーっ!本当にすみません!」
姫代、お客さんじゃなくお客様だから。
声には出さず二人をボーッと眺めた。
でも姫代の言うことも分からないでもない。
どうやら、姫代がシュッとブラインドを上げると、中の様子を伺っていたタマが目の前にいたらしい。そりゃあ、急に人が現れたら腰の一つも抜かしてしまう。
何が言いたいかというと、タマが全て悪いということで…。
「はいはい、いい加減にしなあんたら」
さっきから堂々巡りなのでそろそろ仲裁に入る。
「もういいって。良かったね、怒ってなくて」
姫代の肩にポンと手を乗せた。
「う、うん。うん、良かったぁー!」
強張っていた顔は解れ、安心したようにフニャリと笑った。