エンジェル・ダストE-8
恭一のシビックは〇〇自動車道を南下していた。
柴田の情報を手に入れ、あわよくば枝島からも聞き出せないかと──ルポライター─として取材を申し入れたが、勘ぐられたのか多忙を理由に断られてしまった。
ならばこれ以上、ここに居る理由も無い。それに、柴田から託された情報や五島に任せてある情報を早く分析して、作戦の軌道修正をやる必要がある。
恭一は傍らにブリーフィング・バッグを置き、クルマを走らせる。
「…少し混んできたな」
〇〇自動車道はM市へ向かう上りより、都心へ通ずる下りの方が混雑しやすい。
徐々に車間距離が詰まってきた道で、アクセルを緩めて調整する。スピードが一般道を走るほどまで落ちた。
──こりゃ、30分は余計に掛るな。
恨めし気に前方の混雑具合を眺めていると、後方からエンジンの音が勢い良く迫って来た。
──なんだ?オートバイか。
バッグミラーで覗いた先には、オフロード系らしきオートバイが2台見えた。
その1台がシビックの真後ろについた時、腰の辺りから何かを抜いた。
──あれはッ!
日の光りに反射して見えた黒い物体──まぎれもなく拳銃だった。
乾いた音が炸裂し、銃口が火を吹いた。シビックの右リアタイアが裂ける。
「…くッ、クソッ!…よりによってこんな場所で」
ホイールだけとなった右リアが地面と擦れて火花が舞い散る。凄まじいバイブレーションにより、クルマの姿勢をまともに保てない。
路側帯の太いワイヤーが迫って来る。
必死にハンドルを操作する恭一。その時、もう1台が前方から撃ってきた。
直前に身を屈ませた。フロントガラスは細かく砕けて白く濁り、前方の視界が無くなった。
「ぐううッ、クソッ!」
恭一はハンドルを左に切った。瞬間、強い衝撃でシートベルトが伸びた。
右足はブレーキペダルを掛け続ける。左側から大きな摩擦音が室内に響いた。
「はあ…止まったか…」
恭一は周りを見た。あまりの事故に驚き、近くを走っていた他車は止まっていたが、クルマの部品は路側帯に散乱しているだけで、走行帯は無事だった。
──しかしこんな場所で…。奴ら、焦ってるのか?
ボロボロになったシビックの室内。恭一は救助を待つ間、思考を巡らせていた。