今夜、七星で Tsubaki's Time <COUNT2>-10
「…もう、会いたくな…いです」
あたしはそう言っても、まだどこかで先輩が何かゆってくれるんだと。
思ってた…なのに。
「そう。じゃあ今日限りだな」
それだけだった。
あきらめたようにため息をついて、自分の体液の汚れをティッシュで拭く。
先輩はいつもならシャワーを浴びるけど、早くこの部屋から出たいというかのようにその場に落ちている衣類を拾って身につけだした。
未練なんて、ない。
だから早く…出て行って。
―――先輩は着替え終わると、何も言わずに部屋を出ていった。
あたしは、取り残されたまま。
取り残されたままなのは体だけじゃなくて…
心も…とても寂しくて。
…あたしはその日、眠りにつくことができなかった。
・・・・・・・・・・・・・
翌日。
あたしは、目を腫らしたまま1人で七星にやってきた。
下を向きながら、あまりユースケ君と目を合わせないようにするけど。
「何かちょっと目腫れてない?」
そんな言葉を簡単にぶつけてくるユースケ君。
「…うん。あんまり寝れなかったから」
とっさに出た言葉はそれだった。別に、ウソではないし。
「ふーん。恋わずらい?」
クスクスッと冗談ぽくユースケ君が笑う。
だけど、その言葉がグサリと突き刺さるのは当たり前なわけで。
気にしないように、してるのに。
「はい、キール・ロワイヤル」
あたしが傷ついたのなんか全くわからないって笑顔で、お酒を差し出す。
「ありがとう」
差し出されたグラスを手に取ると、キール・ロワイヤルの半分くらいを、一気に口に流し込んだ。
そんなあたしを見てユースケ君が、あたしの顔を心配そうに覗き込む。
「…大丈夫?」
さっきと違って、眉をひそめてあたしに聞く。とても心配そうな顔。
そんな顔、しないでよ。誰にでも、してるんでしょ…?
「…ちょっとトイレ」
そんな質問は無視したくて、質問には答えず席から立ち上がる。
いくつかのテーブルの隙間を通って、酔ってもいないのに重い足取りでトイレへと向かった。
トイレのドアを開けて、鏡を見ると本当にひどい顔をしてるのがわかる。
薄暗い、バーの照明でもわかるくらいだもんね…
そんなことを思いながら鏡を見ていると、ぽろぽろと涙が溢れてくる。
自分でもう会いたくないって言ったんじゃない。
もう会いたくない、早く出て行ってって思ってたんじゃない。
なのに何でこんなに傷ついてるの…