今夜、七星で Yuusuke’s Time <COUNT2>-12
「好きな人、いるんだろ?」
唇を噛む、その仕草。
樹里さんの気持ちはバレバレだ。
「気付かなくてごめん。……いや、気付いていても止めてあげられなくて、ごめん」
「……いつから?」
樹里さんの睫毛は涙でキラキラしていた。
俺はゆっくりと立ち上がり、頑張って笑った。
「……いつから、だろうね。バーテンが好きって聞いたときからかな」
輝いた笑顔でカウンターにいる俺を見つめていた。
俺じゃなく、もう一人のバーテンダーを。
「………ごめん」
罰が悪そうに笑う樹里さんに確信する。もう本人でなきゃ、樹里さんの気持ちは埋められないらしい。
「こっちこそごめん。……また来週待ってるから」
最後は営業スマイルで。
ドアを開けて外に出ると、身震いするほどの寒さに包まれる。
表通りからマンションを見上げて、白くなった息を吐いた。
「あーあっ!!!」
半ばやけくそで大きな声で落胆する。
朝焼けを待つ空に響き、ビルの隙間を抜けていった。
大切な玩具を取り上げられたような、悔しさと虚しさ。
別れは、だから嫌いだ。
俺は行く宛も無く歩く。
いつもより足が重いのは気のせいだろうと、言い聞かせながら。
>>>>>>>>To next time