魔性の仔@-1
翌日、刈谷は早く目が覚めた。様々な思いに気が昂ぶり、深く眠れなかった。
身を起こし、乱れた髪に手グシを当てながらとなりを覗き込む。緋色の髪をした少女は、横を向いて静かな寝息を立てていた。
改めて昨夜のことが鮮明に浮かんでくる。
──さて、捜すにしたって…。
壁の時計に目やる。時刻は7時を少し過ぎていた。
──この時刻なら起きてるな。
そっと布団を抜け出し、テーブルに置いた携帯を取ると通話ボタンを押した。
コール音がかなり繰り返された後、ようやく相手が出た。
「…もしもし?」
不機嫌そうに応対する声。眠っていたのを無理やり起こされたのだろう。
対して刈谷は、気にした様子も無く快活な声で電話に答える。
「よおッ!早紀。お疲れ」
電話の相手は、藤沢早紀という刈谷の1年後輩だった。
どんな仕事にも積極的で物怖じしない。──なるようになる─が、口癖な天性のオプティミストで何故か刈谷とウマが合う。
「朝いちで悪いがおまえに頼みがあるんだ」
「も〜ッ、何です?私、昨日校了で遅かったんですよォ〜」
不満を垂れる早紀。
「おまえ、今日はゆっくりいいんだろ?」
「だから、何です?」
「…おまえにな。女物の服を数着買って来てもらいたいんだ」
「エッ…?」
早紀の声色が変わった。寝ぼけ声は消えていた。
「身長は140センチ前後。体格はヤセ型。年齢は12〜3歳。それくらいの女物の服を買って、オレのアパートに持って来てくれないか」
「それって…どういう」
「詳しく事はアパートで話すよ。…あっ、それと下着やクツもな」
「あ、あのッ、ちょっと!」
早紀は慌てて理由を聞こうとしたが、すでに電話は切られていた。
「もうっ!だから私、刈谷さんってイヤなのよ」
ひとしきり、独り言の悪態をついていたが、諦めたようなため息を吐いてベッドを這い出ると、出かける準備をしだした。
──私を雑用係にしか見ていない。あんなヤツ。
手早く洗面と化粧を施し、パンツスーツに着替えてアパートを飛び出した。
時刻は10時を少し回っていた。
「こんなものでどうです?」
バスルームから早紀が少女を連れて来た。ひざ丈のジーンズにパーカー姿。服に慣れないせいか、歩き方がぎこちない。
刈谷はその姿に目を細めて早紀を見た。