投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

魔性の仔
【その他 官能小説】

魔性の仔の最初へ 魔性の仔 10 魔性の仔 12 魔性の仔の最後へ

魔性の仔@-6

「…ああ。この子ですか」

 視線に気づいた刈谷は、苦笑いを浮かべて少女の肩を抱き寄せる。

「ちょっと…事情がありまして、私が預かってるんです」

 中尊寺は、しばし2人を交互に見た。そんな視線に少女は怯えて刈谷の背中に隠れてしまった。

「すいません…」

 すまなそうに謝る刈谷。
 しかし、彼女は視線を外すと──どうぞ─とだけ云って、ドアのむこう入っていった。

「どうやら、お許しが出たみたいだ」

 刈谷は、少女の背中に手を添えるとドアを潜った。無骨な外観とは違い、内装は繊細な印象だ。
 メイプルの板壁は磨き込まれた朱色で、特有の甘い香りが漂っていた。
 2人は、エントランスから奥のリビングに通された。間接の採光は、部屋を柔らかい光で包んでいる。

「では先生、早速、次回作を詰めましょう」

 刈谷は、持参したカバンから大ぶりの手帳を取り出した。中尊寺のひと言々を逃すまいとする配慮だ。
 打ち合わせの間、少女は窓辺のイスに腰掛けて大人しく外の景色を見入っていた。

「あの…」

 ほぼ、打ち合わせが終わりに近づいた時、中尊寺が遠慮がちに刈谷に訊いた。

「何か?」

 夕べ、自分を呼びつけた時とはあまりに違う態度に、刈谷は戸惑いながら訊き返す。

「…あの子をイメージして書きたいのですが…」
「あの子を…?」

 刈谷には、中尊寺の云っていることが今ひとつ分からなかった。

「しかし先生。たった今、打ち合わせたプロットには、あの子が出てくる状況は……」
「今、浮かんだんです。それを書かせてもらえないかしら?」
「しかし……」

 今まで考えていたプロットを反古にして、新しく考えているとスケジュールを大幅に修正する必要がある。
 それだけは避けねばならない。

 そんな刈谷の思いに気づいたのか、

「明日までに、明日の、この時刻までにプロットはまとめるから」

 あまりの懇願ぶりに、刈谷の方がたじろいだ。

 ──このまま、乗り気でないモノを書かせるよりも良いかも…。

「分かりました。では、明日、再び伺いますから」

 立ち上がり掛けたその時──

「あの。その子をここに預からせてもらえないかしら?」
「ええッ!?」

 中尊寺の云ってる意味が理解出来ない。


魔性の仔の最初へ 魔性の仔 10 魔性の仔 12 魔性の仔の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前