魔性の仔@-6
「…ああ。この子ですか」
視線に気づいた刈谷は、苦笑いを浮かべて少女の肩を抱き寄せる。
「ちょっと…事情がありまして、私が預かってるんです」
中尊寺は、しばし2人を交互に見た。そんな視線に少女は怯えて刈谷の背中に隠れてしまった。
「すいません…」
すまなそうに謝る刈谷。
しかし、彼女は視線を外すと──どうぞ─とだけ云って、ドアのむこう入っていった。
「どうやら、お許しが出たみたいだ」
刈谷は、少女の背中に手を添えるとドアを潜った。無骨な外観とは違い、内装は繊細な印象だ。
メイプルの板壁は磨き込まれた朱色で、特有の甘い香りが漂っていた。
2人は、エントランスから奥のリビングに通された。間接の採光は、部屋を柔らかい光で包んでいる。
「では先生、早速、次回作を詰めましょう」
刈谷は、持参したカバンから大ぶりの手帳を取り出した。中尊寺のひと言々を逃すまいとする配慮だ。
打ち合わせの間、少女は窓辺のイスに腰掛けて大人しく外の景色を見入っていた。
「あの…」
ほぼ、打ち合わせが終わりに近づいた時、中尊寺が遠慮がちに刈谷に訊いた。
「何か?」
夕べ、自分を呼びつけた時とはあまりに違う態度に、刈谷は戸惑いながら訊き返す。
「…あの子をイメージして書きたいのですが…」
「あの子を…?」
刈谷には、中尊寺の云っていることが今ひとつ分からなかった。
「しかし先生。たった今、打ち合わせたプロットには、あの子が出てくる状況は……」
「今、浮かんだんです。それを書かせてもらえないかしら?」
「しかし……」
今まで考えていたプロットを反古にして、新しく考えているとスケジュールを大幅に修正する必要がある。
それだけは避けねばならない。
そんな刈谷の思いに気づいたのか、
「明日までに、明日の、この時刻までにプロットはまとめるから」
あまりの懇願ぶりに、刈谷の方がたじろいだ。
──このまま、乗り気でないモノを書かせるよりも良いかも…。
「分かりました。では、明日、再び伺いますから」
立ち上がり掛けたその時──
「あの。その子をここに預からせてもらえないかしら?」
「ええッ!?」
中尊寺の云ってる意味が理解出来ない。