「午後の人妻 童貞嫐りC」-1
金曜日の午後。
愛田由子(あいだ・よしこ)は約束の時間より30分も早くに、W橋の北詰めに到着していた。
家を出る前に、
やはり行く行かないで、
葛藤と逡巡(しゅんじゅん)があったが、
思い切って勇を鼓してやってきた。
この機会を逃したら、
もう童貞の男性と交わることはないと、
自分を奮い立たせ、
言い聞かせるようにしてやってきたのだ。
W橋の北詰めは路肩が広くつくられていて、車を停めて待つのに都合がよかった。
由子が車を使うことはあまりなかったが、この日ばかりは特別である。
高校生の亨と繁華な駅前で落ち合ったり、その近くのホテルに入ることは憚(はばか)られた。
誰に見られるか知れなかったし、それが露見して淫行罪にでも問われたら、取り返しのつかないことになる。
慎重にも慎重な行動が必要であったのだ。
約束の3時が、あと3分ほどに迫ったころ、
助手席側の窓がコツコツとノックされ、
亨が顔を覗かせた。
運転席の由子を確認すると、
ドアを開けて助手席に乗り込んできた。
彼は約束通り、ほんとうに来た。
由子は緊張を高めて、身を固くした。
「ホ、ホントに来てくれたのね」
「ええ。
来ました。
ホントに来ました」
ふたりはぎこちなく言葉を交した。
いつになく亨が緊張しているのも伝わってくる。
「どこかでお茶するとか、面倒なことは省いて、
このまま目的のところへ行ってもいいかしら?」
「ええ、このまま行ってください」
ふたりとも正面を向いたまま、顔を見合わせないようにして話した。
「それに……」
由子はそこまで言いかけて言葉を切り、ひと息入れてから継いだ。
「……私のことを……いつもこんなことをしている蓮っ葉な女だと思わないでね。
こんなことをするのは初めてのことなの」
これだけは伝えなくてはという感じで、一気に話していた。
亨が二度、三度とうなずいたが、彼にしたらそんなことはどうでもよかったろう。
それで由子が車を発進させた。
W橋を渡って南へ下っていく。
ハンドルを握っている由子はもちろん、
隣の亨も正面を向いたまま塑像(そぞう)のように動かなかった。