やっぱすっきゃねん！Ⅲ⑧-3
「プレイボール！」
大会第１試合、青葉中対東海中が始まった。
──乾か…こいつは緩急がダメだったな。
榊はベンチに腰掛け、初球を見守る。彼もまた、対青葉中対策を選手に伝えていた。
キャッチャーのサインを確認して１球目を投げた。
──ストレート！
乾はバットを振り抜いた。鈍い金属音を残し、ボールはバックネットに飛んだ。
──クソッ！タイミングはバッチリだったのに。
わずかな力みでボールを打ち損ねて悔しがる乾。
２球目。内角低め。乾はステップしながら見極める。ボールは手前で変化し、ホーム付近でバウンドした。
──やっぱりな。
練習試合では面白いように決まっていたフォーク・ボールに引っ掛かってこない。相手バッテリーは、ならばと作戦を変えた。
３球目のサイン。ピッチャーは頷き、セットから速い動きで投げた。ボールは外の高め。流し打ちには絶好の球。乾はステップから右足を踏み出し、内から外へとバットを振りだす。
その時、ボールは外に沈み込む。乾は大きく空振りした。
──外に逃げるフォークなんて聞いてないぞッ！
それは相手ピッチャーが春先以降に覚えたフォークだった。握りをわずかにズラすだけでも変化は変わる。彼は試行錯誤を繰り返し、──シュート回転して落ちる球─を見つけたのだ。
──こりゃ出塁は厳しいな…。
追い込まれて乾は作戦を変えた。足の位置を少し前にとり、バットをさらに短く握った。
キャッチャーはそれを見て次のサインを出す。
ピッチャーが４球目を投げた。外角低め。乾は小さく振ってカットする。
５球目の内角もバットを出してファウルで逃げる。
──なるほど、球数を放らせるつもりか。
榊はベンチからサインを送った。キャッチャーはサインに頷き、ピッチャーにサインで知らせる。
６球目。ピッチャーが右腕を振った。リリースの瞬間、親指と人差し指で強いトップスピンを掛けて。
ボールは高めに浮いた。乾は──失投─と思い、ステップからバットを強く振りだす。
しかし、ボールは手前から大きく速度を落とし、弧を描いて低めに落ちた。
──なんだッ！
乾はかろうじてバットに当てた。タイミングを外され、体勢は伸びきったままで。
打球は力無くファースト正面に転がった。ファーストはボールを捕ると、自ら１塁を踏んだ。
「向こうも対策を立ててるようですね」
「ええ。ピッチャーも、この３ヶ月で成長してます…」
硬い表情の永井と葛城。改めて榊という存在の大きさを感じていた。
２番足立は４球を叩いてサードフライに打ち取られ、２アウトで３番直也の打順となった。
右打席に入り、構える。その身体には力が入っていない。