冷たい指・女教師小泉怜香 A-2
Tシャツにジャージ姿の亮。
シャワールームで汗を流して来たのか、濡れた髪がドキリとするほど色っぽい。
「センセー。お待たせ」
彼はニヤリと見透かしたような笑いを浮かべながら私に真っ直ぐ近づいてきた。
「別に……ま…待ってなんか……」
後ずさりしようとしたが、すぐ後ろにあるベッドに退路を阻まれる。
「嘘……一日中俺のこと考えてただろ……」
亮はクスリと鼻で笑うと、前置きもなくいきなり私の身体を正面から抱きすくめた。
「……ね…やめて…私あなたと…ちゃんと話がしたいの……」
もがきながら訴えるが亮は聞く耳を持たない。
「話なんかいつでもイイじゃん……俺…消毒しに来たって言ったろ……」
「……しょ…消毒……?」
「センセーの身体から……あの男……消してやるよ」
亮は私の頬を両手で挟んで、唇を重ねようとしてきた。
「……待って…ダメ……」
教師としてのギリギリの理性が私になんとか抵抗の言葉を吐かせたが、亮はまったく気に止めようとはしない。
「……待たない……」
彼がその言葉を言いおわらないうちに、唇が重なった。
亮の吐息はハッカのような清潔な香りがした。
亮は私を抱くために歯を磨いたのだろうか―――そんなことをを想像するだけで、胸がキュッと切ない音を立てる。
身体からも石鹸のいい香りがして、私は自分の身体が汗臭いのではないかと急に恥ずかしくなった。
「……んっ…んん……」
強く、それでいて丁寧に私の唇を食む亮。
何度も何度も顔の角度を変えながら口腔に深く挿し込まれる舌が、自在に形を変えて私の中を隅々までまさぐっていく。
スッとするような清涼感のある香りが、私の口の中に広がった。
男性からこんなに情熱的で優しいキスをされたのはどれくらいぶりだろう。
心が置き去りにされたまま肉体だけに与えられる暴力的な快楽からは、いくらイっても決して満足は得られなかった。
それどころか、心と肉体のバランスが崩れ、なんとかそのギャップを満たそうとして私は異常なまでに「男」を求めてしまっていたのだ。
優しいキスから始まる当たり前のセックス。
こんなごく普通の幸せを、私はもう何年も忘れていた。
それを思い出させるために、亮は電車の中ではなく、二人きりになれる場所で私を抱こうとしてくれたのだろうか―――。