冷たい指・女教師小泉怜香 @-1
電車がY駅を出るとすぐ、背後に「あの男」の気配を感じた。
『―――来た』
そう思っただけで、全身にゾワリと鳥肌がたつ。
反射的に逃げ道を探したが、すし詰め状態の車内では身体の向きを変えることすら不可能だった。
混雑に紛れながら、男はいつものように私の背中にぴったりと身体を密着させてくる。
ヒップに強く押し付けられている男のモノが、もうすでにはち切れんばかりに勃起しているのが衣服ごしでもはっきりとわかった。
『……イ…イヤ……』
伸縮性のある白いタイトスカートにぐいぐいめりこんでくる男の欲棒。
電車の揺れを巧みに利用しながら、男はそれを私の尻の割れ目にそって何度も擦りつけてきた。
指で触られるのとは違う、ねっとりとした感覚が下半身を襲う。
「……んっ…ハァ…ッ……」
思わず声が漏れそうになり、私は慌てて大きく息を吐いた。
もう一ヶ月以上ほとんど毎日のように繰り返されている痴漢行為。
『駅に着くまで我慢すればいい―――』
初めての時にそう思ってしまったのが間違いだった。
教師という職業柄、いくら被害者だとはいえ、こういう厄介な出来事はできるだけ穏便に済ませようとする習慣が身についてしまっている。
学校というのは、生徒にとっても教師にとっても想像以上に狭く陰湿な世界だ。
事件や変化に乏しい小さなコミュニティの中では、ほんのささいな出来事が大きな噂に発展し、思わぬ面倒を引き起こしてしまうことも多い。
私が通勤電車で痴漢にあったことが他の教師や生徒に知れてしまったら、刺激的な話題に餓えた連中の恰好の餌食になることは間違いないだろう。
学校中の好奇の視線に毎日晒される自分を想像するだけでぞっとする。
それでなくても教科担任を持たない養護教諭の私は、教師仲間からも生徒たちからも、いつも軽い疎外感を感じているのだ。
『とにかく我慢しよう―――』
その時私は、それが最良の選択だと思ってしまったのだ。