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circle sky
【青春 恋愛小説】

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Always the same sky-4

その頃から、深夜になると寝室を抜け出し、バスルームへ行くようになったのだと妻は言った。与えられた逃げ場所としてのバスルームは、いつしか母の期待から逃げたいという少女の欲求を満たす場所に変わった。だが、そこで眠ることは出来なかった。そんなところを見られたら、母を失望させてしまう。

少女は、その代わりに机の中のカッターナイフを取り出し、リストカットを始めた。流れる血を見ているとね、なんだか安心したの、と妻は言った。全てを強要され、自分自身の存在が上手く認識できなくなっていた自分自身の存在を、そうすることで確かに感じられるようになったのだと。

 

 やがて、有名な進学校に進学を決め、地元を離れ一人暮らしをすることになるのを境に、妻はリストカットをやめた。その代わりに、彼女はのびのびとバスルームで眠るという生活を手に入れることが出来た。

 そして、そのまま僕との交際がスタートしたのだと彼女は言った。



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「そういえば、いつから普通にベッドで眠るようになったの?」と僕は訊く。僕と妻とは一年ほど遠距離恋愛をしていた時期がある。高校を卒業し、他県に就職の決まっていた僕は、バスルームで眠る恋人のことを気にかけながら、それでもやむなく飛行機に乗り、見知らぬ街へと向かったのだった。

 そして、その大体一年後に僕は妻を呼び、一緒に暮らすようになった。その頃にはもう、彼女は他の人たちと同じように、ベッドで眠るようになっていた。二ヶ月に一度しか会えない僕らは、それぞれの一人の時間の中で、僕のピアスホールは徐々に収縮し、彼女はいつしかバスルームを捨てた。

「あんたと暮らすようになってからだよ」と妻は応えた。

「じゃあ、離れている間はずっとバスルームで眠っていたの?」

「そう。でもね、いつかは止めなきゃと思ってたんだ。バスルームで眠ることに別に悪いところなんてただの一つもないけど、でも、やっぱりなんだかちょっと奇妙じゃない? だからね、いつか止めよう止めようって思ってて、そんな時、あんたに一緒に住まないかって言われて、これはいい機会だと思ったの。この機会に、普通にベッドで眠ろうって」

「最初は上手く眠れなかった?」

「ううん。すぐに寝れた」妻は可笑しそうに笑った。「どうしてだろうね? 不思議だよね」

「俺がいたからかな?」と、僕は悪戯っぽく言ってみる。

「そうかもね」と、自然にさらっと妻は言うから、僕はなんだか急に恥ずかしくなって、ごまかすように六本目の煙草に火をつけた。


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