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circle sky
【青春 恋愛小説】

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Always the same sky-3

「そもそも、どうしてバスルームでなんか眠っていたの?」

「話してなかったっけ?」

「うん。聞いてない」

「そうだよね。誰にも話したことないし」

「なんだよそりゃ」

「結構暗い話だから」

「ふうん」

「聞きたい?」

「うん。聞きたい」

「ねえ、どうして今まで聞かなかったの?」

「聞けなかった」

「どうして?」

「何か聞いちゃいけないと思ってた」

「じゃあ、なぜ今になって?」

「分からない。タイミングかな?」

「タイミング?」

「結婚と同じだよ」僕は五杯目のビールを注文し、妻はカシスオレンジを注文した。

「話してもいいけど、条件がある」と妻は言う。

「条件?」

「今までどおりでいてくれること」

「平穏を続ける事」

「そういうこと」妻はにっこりと笑い、人差し指を僕の額にあてる。その仕草が可愛くて、僕は微笑む。「約束するよ」と僕はいう。



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 机の上には、参考書が散らばっている。キャンパスノート、シャープペンシル、MONO消しゴム。少女は必死で勉強をしている。それが果たして自分のためになるのかどうかは疑問だったが、自分がそうすることで、少なくとも母が満足しているらしいことを、彼女は知っていた。だから、それだけのために少女は必死で勉強をした。自分に興味があることではなく、単にテストでいい点数をとるための、孤独で過酷な戦いをしていた。

 当時、少女は自室のベッドで眠っていた。バスルームで眠るようになるのは、それからもう少し後の話だった。勉強に疲れると、少女は引き出しからカッターナイフを取り出し、飽きることなくそれを見つめた。刃を出すときの、カチカチという音が、少女は大好きだった。何も切っていないカッターの刃は鋭く、その輝きはまるで魔法のように少女の心を射抜いた。

 

 ある日、少女の家庭に問題が発生した。いつまで経っても出世できないことにストレスを感じた父のDVが始まったのだ。予兆はあった。まず、酒を飲む寮が多くなり、やがて怒鳴り散らすようになり、最後に、手を出すようになった。

 父が暴れるようになったとき、少女の母は、少女にバスルームに隠れるようにと命じた。少女は言われたとおりにバスルームに隠れ、鍵をかけ、水の入っていないバスタブに身を隠し、耳をふさいだ。耳をふさいでもまだ、父の怒鳴り声や、何かが落ちる大きな音や、食器の割れる甲高い音をふさぐことは出来なかった。

 その頃から、母の期待が大きくなった。子供のために、問題のある旦那と暮らすことを継続するのだ、という結論に至った母は、少女に対して過剰なまでの期待をするようになった。少女の身を必要以上なまでに案じ、夜の八時を過ぎての外出を禁じられた。異性交遊も認められず、ゲームも禁止され、漫画も禁止された。少女は本棚に並ぶ夏目漱石や、太宰治や、芥川龍之介を呪い、与えられたシューベルトのクラシックCDを呪った。


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