軟禁五日目―性欲、倒錯、異常な愛情-1
1. 地獄に落とされて
――何日経っただろう。
何度犯されただろう。何度口づけし、何度咥えされられただろう。
殴られ蹴られ、無理矢理にされて、それでも勝ってしまう圧倒的な快楽に抗うことなどできない。
そうして一体何日が経ったというのだろう――ぼんやりしながら、リーナスは考えていた。
一月にも思えるくらいの長い時間だった。
「リーナス」
黒に近い濃紺の制服を身に纏った男を、リーナスは一瞥した。
コンクリートの床と壁、色のない中で赤と白の腕章が酷く目立つ。
男は深く被っていた軍帽を少しだけ上げ、リーナスを見つめた。冷たく、鋭い眼光が彼女を穿つ。リーナスは黙って顔を俯かせていた。この男が将校とはいえ、愛嬌など振りまいたところでどうにもならない。
もっとも帝国反乱軍の副頭領であったリーナスは、愛嬌という言葉はとうに捨てていた。彼女にとって必要なのは、女としての愛らしさではなく統率力と冷徹さ。男など歯牙にもかけぬその気の強さも相まって、反乱軍頭領の片腕として圧倒的支持を得ていた。
しかしそれも、数日前のことである。
反乱軍の武装蜂起。
血で血を洗う抗争は五日間続き、この五日間だけで幾千もの戦死者が出た。
優勢は帝国軍にあった。最新式の武器に、数だけの反乱軍が適う筈もなかった。それでも反乱軍の抵抗は凄まじく、幾人もの帝国兵が捕虜になったという。
しかし蜂起から五日、激しい市街戦の末に、帝国軍治安部隊により反乱軍頭領のキリル・カレルが捕らえられる。反乱軍は戦意を失くしたのか、あっという間に帝国軍に沈静化させられてしまった。
反乱軍幹部たちも捕まり、蜂起は失敗に終わった。
そしてそれは、リーナスにとって地獄の始まりだった。
「放せ下衆が!」
収容所の中で、ひとりの女が叫んでいた。金の髪を振り乱しながら、屈強な帝国兵達に抑えられ、女――リーナス・ルジャは眼前の男を睨みつけた。
帝国軍将校デミアン・シュナイダー。椅子に腰かけ長い手足を優雅に組み、デミアンは切れ長の眼をリーナスに向ける。汚れて破けた反乱軍服のリーナスを上から下まで舐めるように見回すデミアン。軍帽の下で光る碧い眼は、リーナスを本能的に慄かせた。
デミアンが立ち上がる。彼はリーナスの目の前で屈み、細い顎を掴んだ。
「何をする……ッ」
「Z室に運んでおけ」
微かに口角を上げデミアンは言い、彼女の頬を指先でなぞった。
ぞくり、リーナスの背筋に何か冷たいものが走る。
「……ッ」
その感覚に、リーナスは覚えがあった。しかし、信じたくはない。まさか、こんな男などに――。
リーナスの心の内を知ってか知らずか、デミアンが小さく笑む。嘲りを交えた、冷酷な笑みだった。
デミアンの言うZ室は、収容所の地下、奥深くにあった。
黴臭い、湿った空気と鼠の駆ける音が無気味な地下の一室。
コンクリートと鉄扉の中には低い寝台に使い古した様子のソファ、薄汚い毛布。片隅には排泄用と思しき穴が空いている。此処に一人投獄されるのには、少しばかり広いように思えた。
引き摺るようにしてこの一室に連れてこられたリーナスは、鉄扉の奥に投げ出された。
顔と肘を擦り剥き、リーナスは顔を引き攣らせる。
「………」
そしてリーナスを運んできた男達は、何も言わずに扉を閉め、去って行った。
リーナスは扉に張りつき、叩きながら声を上げる。
「開けろ! 聞いているのか! 開けろ!」
暗い廊下に、空しくリーナスの声と扉を叩く音が響いていた。