ネコ系女 #2-3
「俺、オキタマオです!」
「タマオ?」
「いやいや違う違う!オキタ・マオ。海の沖に田んぼの田。写真の真に中央の央で真央」
聞いても無いのにペラペラと隣でタマは話していた。何度聞いても紛らわしい名前だと思った。
彼はどうやら周りにタマと呼ばれているらしく、私も心の中でそう呼ばせてもらうことにした。
「ふーん」
私は頬杖を付き、ちびちびとお酒を飲みながら彼の話を聞いていた。最も耳に入っては流れていく、という状態だけど。
「何かさやっぱり私服だと雰囲気違うんだね。俺絶対ケーキ屋さん年上だと思ったもんなぁ!」
びっくりなことにタマと私は同い年。今年の春に短大を卒業して、今はどっかに就職したとか何とか言っていた気がする。
私だってあんたは年下だと思ってたっつーの。
「そ」
「大人っぽいつうかさ、落ち着いてるっつうかさ」
ふん、どっちでもいいって。フケてるって言いたいの?
私はまた一口お酒を飲んだ。
【ネコ系女は結構酒に強い】
合コン恒例の席替えで私はタマの隣になってしまったのだ。
「俺ここにしよーっと」といち早く私の隣をゲットしやがった。顎髭がそれを阻止しようとしていたが、タマは頑として譲る気は無く、泣く泣く顎髭は私の向かい側に座った。
私は顎髭とポツリポツリと会話をして、タマには適当に相槌を打つ。
それでもタマは目を輝かせながらペラペラと話していた。
「昼間に貰ったネコさ、オスだったんだ!」
知らないうちにそんな話になっていたのか。
「あ、そう」
オスなんだ。てっきりメスだと思ってた。
男好きのホモネコか…。
「でね、お姉さんに名前を決めてもらおうと思って」
「は?」
私はついタマの方に顔を向けてしまった。
「何で私が…」
「だって俺ネーミングセンスとか無いしぃ、お願いします!」
確かにネーミングセンスは無さそう。
でも私がきったないネコの名前を付ける義理はない。だってあのネコ、あれに似てるんだもん。
加納さんが作るケーキでも唯一好きになれないものがある。
クリスマスになると毎年ショーケースに並ぶ地味なケーキ。由来が"切り株"っていうのも何となくいや。
チョコクリームの上に振り掛けるココアパウダーが、あのネコの体に付いた泥のようで。