ネコ系女 #2-2
「うん。実はね、あんま好きじゃない」
「じゃあ他の頼めば?」
「そうしようかな。これ、さげてもらお」
「ああ、いいよいいよ。俺が代わりに飲もうか?」
よし、来た。
私はにっこりと満面の笑みを浮かべた。
「本当?ありがとう」
嫌いな奴の飲み残しなんて飲みたくない。ということは、逆に考えればこいつは私に少しでも気がある。
たまにただのケチ臭い奴もいるけれど、この顎髭は違う。
「おっ、今日は飲むな〜。カァッコいい!」
顎髭の隣にいるサーファー風の男が囃し立てた。
髪が染めすぎて痛んでいるから、あだ名は枝毛でいいや。
【ネコ系女は心の中で全く別のことを考えられる】
「私、お酒強い人好きーっ!」
「まじで?なら、カッコいいとこ見せなきゃな」
顎髭ははっはっはと笑った。その時点でカッコ悪いと思いながら、私も少し笑ってあげた。
全体的にモノトーンでまとめていて、高い身長、細いけど引き締まった体格によく似合っている。自分に合う格好が分かってるんだろう。顎髭は八十二点。
枝毛は…十五点。
とりあえずチャラチャラしていて目障り。
「朝希ちゃんどれ飲むの?」
「んー、カクテルがいい」
「じゃあカシオレなんてどう?」
「イヤ。普通過ぎる」
「ソルティードッグは?」
「やだ。綺麗なのがいいな」
「えっと、じゃあ…チャイナブルー!」
「あ、それいいね!頼んでくれる?」
私はにっこりと顎髭に笑い掛けた。
オッケー、と頷いて顎髭は店員さんを呼び私のカクテルを注文してくれた。
「ありがとうございます♪」
お得意の営業スマイル。その時だった。
「ぁあっ!分かったっ!」
私の視界の片隅で何かが大声を出した。
私の向かい側にいた、存在感を全く漂わせなかった男が一気に視線を集めた。
私も例外ではなく、ビクッと体を跳ねさせて改めて彼を見た。
癖毛だかパーマだか分からない半端くさい髪にやや白い肌。普通の白いシャツにグリーンのチェックのストールを巻いていて、ニコニコと楽しそうに笑っている。その笑顔は何だか目出度い。
「どうしたんだよ、タマ」
タマと呼ばれたネコみたいな名前の彼…ん?ネコ?
私の脳裏に今日の出来事がフラッシュバックされた。
「…あ」
「ケーキ屋さんのお姉さんだ!!あースッキリした!!」
すっかり忘れていた。この人、昼間のネコの人だ…。