エンジェル・ダストD-9
某所。
恭一と五島は、朱色に塗られた門を潜り──ある場所─に向かっていた。
「こんな中華街に知り合いが居るのか?」
「ここから2ブロック向こうだ」
恭一は五島をさずさえ、賑やかな通りから薄暗い暗部へと入っていった。
長屋所帯が続く様は、数十年昔にあった日本の風景を思わせる。そこが無法地帯であったとしても。
その路地を奥へと進むと、突然、白亜の豪邸が現れた。中華街の大班であり武器商人。──李海環の自宅。
恭一達は中に通された。
「李さん、またコレクションが増えましたね」
現れた李に対し、恭一は飾られた絵画を眺めていた。
「それはゴーギャンです。ザザビーで競り落としましてね。大したモノじゃないのですが」
「因みにいくらです?」
「300万くらいでしたかねえ」
恭一は口笛を鳴らした。300万ドル。邦貨にして3億円。
「ある処にはあるもんですねえ」
首を振り々、ため息を吐く。
「しかし、あなたは私の絵画を鑑賞にいらしたわけじゃない?」
李の言葉に恭一は振り返ると、彼の座るアームチェアの対面に着いた。
「実は、李さんにお願いがありまして…」
「伺いましょう」
李は顔に笑みを湛える。まるで余裕の有るように──。
「私達を匿って頂きたいのです」
──何だと!
李の顔がみるみる変わった。驚きというよりも、いやな予感に。
それは恭一の目が物語っていた。──凶事を迎える─そんな目だった。
「それは、どういう意味ですか?」
李は静かな口調で問い質す。──関わりたくない─そんな口ぶりで。
「李さん。私は陸自の特殊部隊と公安に追われているんです」
「仰ってる意味が分かりませんね?」
「仕事で──ある事件─を探っているうちに、防衛省が絡んでいる事が分かりました。
その途端、奴らが私達を付け回すようになったんです」
「それが何故、私に繋がるのです?」
「細かい説明は省きますが、防衛省は何かとんでもない事を企てている。
その真実に触れた大学教授は殺され、その事件を追った刑事も闇に葬られました。
防衛省と警察庁が手を組むほどの企み。それは将来、御国──中国─の脅威となりうるはずです」
見事としか言いようのない恭一のセールス・ピッチ。李は知らず々に身体を前に傾けた。
「私は真実を暴きたい。しかし、防衛省に警察庁では、いかんせん勝負する前に消されるのがオチです」
「それで私を頼って来たと?」
李の言葉に恭一は頷く。