エンジェル・ダストD-7
──さて、こいつがどれだけの情報を持っているか。
恭一は、ジャケットの内ポケットから──ドライバー─を取り出した。
見た目はドライバーだが、その先端は錐のように尖っている。
恭一はドライバーを振り降ろす。肉を貫く抵抗感が掌に伝わった。男の太腿から鮮血が溢れた。
「グウウゥーーーッ!」
激痛に男の身体が痙攣する。恭一は相手の髪を掴み、自分の方に引き寄せる。
「ようやく目覚めたか…オレの質問に答えろ。さもなくば、今以上の痛みを加えるぞ」
険しい目で睨み付ける、恭一の迫力に男はただ頷いた。
「…良い心掛けだ。おまえの所属は?」
男は躊躇いから黙った。恭一は迷うことなくドライバーを引き抜き、再び太腿を貫く。
「がああッ!ぐうう…」
痛みに跳ねる身体。恭一は男の襟首を掴み、再び自らの方へ引き寄せた。
「オレを試すなよ…何だったら、心臓を貫いて楽にしてやろうか?」
男の胸にドライバーが向けられた。双眸に宿る鬼気。それを見た男の心は恐怖に凍りつく。
「オレは──千代野─の人間だ」
──千代野!
警視庁公安警察。その中でも、隠密性を備えた部署の俗称。恭一の目が見開いた。
「公安が何故、出歯って来た?」
男は俯き、呟くように喋り出す。
「おまえ達を尾行し、住居を確認しろとの命令を受けた」
「それは、誰の指示だ?」
「…オレ達の所属長である警視の命令だ」
──昨日は陸自の特殊部隊員。やつに命令する上官とすれば、方面隊長のさらに上、おそらく幕僚幹部辺りの指示。
そして公安警察特殊部。その指示者が警視庁、公安警察所属の警視。
その二つが大河内や佐倉を陥れ、自分達を付けけ回しているのか。
恭一は、ポケットからスタンガンを取り出し男の首筋に当てた。男は、短い呻き声を挙げた後、ぐったりと動かなくなった。
「退くぞ!今すぐ帰って作戦の練り直しだ」
気絶した男をその場に残し、恭一達は元来た路を引き返す。
「…ち、ちょっと待てよ。新聞社には行かないのか?」
「そんな悠長に構えている暇が無くなった」
訊いた五島が目を見張った。余裕の無い恭一の表情。初めて見た顔だった。
──陸自の特殊部隊に千代野。最悪のコンビネーションだ!
唇を固く結び厳しい顔で歩き続ける恭一。心の中に初めて畏怖する気持ちが湧き上がった。