偽り-5
「出版社の方の証言ですが、秋川広親の文章が変わったとこぼしてましたよ。
──以前は文章表現にキレがあったが、ひと月前位から拙さが目立つ─と」
「それが証拠と言うんじゃないでしょうね?」
「いえいえ…これは単なる証言ですから」
「では何が…」
「DNAですよ」
永峰は、自信に満ちた声で宣親に語り掛ける。
「あなたと広親氏のDNAを調べました。双子と言っても、そのDNAはわずかに相違点がありますから…。
あなたの実家にあるあなたの部屋と、このアパートから、あなたのDNAが見つかった。ところが、遺体のモノとは異なっている。
と、すれば、あなたは宣親さんとなる」
──これまでか…!
宣親はイスから立って部屋の外へ逃げようとした。
やめなさいッ!──
永峰の怒声が宣親の背中に飛んだ。
「…このアパートは包囲されています。ドアの向こうに2人、裏に5人…逃げられない。諦めなさい」
永峰は、内ポケットから畳んだ紙を取り出し広げた。──逮捕令状だった。
──終わったのか…。
宣親は肩を落とし、永峰の方に向き直ると両腕を前に突き出した。
「…午前8時55分、容疑者逮捕」
宣親にとって、偽りの生活は終焉を迎えた。
宣親の身柄は、〇〇県警に移された。
「では、まず殺害理由を聞かせてもらいましょうか?」
取調室の中、宣親と永峰、それにもうひとりの刑事が供述調書に立ち入った。
「…永峰さん」
宣親はあえて名前を読んだ。
「あなたは先ほど、──広親は恨みを買うヤツじゃない─と仰ったが、それは間違いです。現に私は殺意を持って広親を殺したのですから…」
伏し目がちに淡々と喋る宣親。もはや──隠し徹す─気力も無いように。
「双子の私達は、両親も見まがうほどにそっくりでした。それこそ容姿だけでなく仕草や趣味も。
2人とも本を読むのが好きでした。それが中学生になった時、自分で物語を書くようになったんです。
最初は私が、すぐに広親も真似て書き始めました…」
「そこで、差が生まれたわけですね?」
宣親は頷いた。