偽り-3
「いえ。単なる好奇心ってヤツですよ」
「刑事さん。私もそれほど暇じゃないんですがね」
苛立ちを隠さない広親の態度に、永峰は肩をすくませた。
「気に触ったのなら謝ります。確か、ミステリー作家だと伺ってますが…」
「だったら何なんです?」
「私は先ほど、あなたに刑事課捜査1係と名乗りました。当然、あなたなら私の専門が何なのかご存知のはずかと。
そのあなたが私を見て──刑事さんですか?─と、疑問を持たれた。これは何故です?」
──なんだ?こいつは…。
理路整然とした語り口。睨め付けたかと思えば柔らかい目。──まるで、すべて見透かすような。
──ここは普通に…。
広親は表情を崩さず永峰に答える。
「いくら私がミステリーを得意とする作家でも、現職の刑事が自宅に訪れるなんてありませんから」
「なるほどね。まあ、いいでしょう」
話を打ち切り、永峰は目に力を込めた。
「4日前。あなたの兄、宣親氏が遺体で発見されました」
「ええッ!あ、兄が!?」
「県境近くにある〇〇渓谷。そこの山林で。死後、およそ1ヶ月だそうです」
茫然とした表情の広親。永峰の言葉も届いていないように。
「捜索願いは3週間前にご両親から出されてました。話では、ひと月前に──弟に会いに行く─と、言ったきり連絡がつかなくなったそうです」
「そうですか……」
──ここまでは予定通りだ。
「3週間前の失踪はご存知でしたか?」
「ええ。両親から連絡は受けてましたから…」
「それで、ひと月前に宣親氏はここに?」
広親は悲しみの顔で首を横に振った。
「いいえ。確かに…その日、兄とここで会う予定でしたが…連絡が入って──来れなくなった─と…」
「それは何故です?」
「……」
沈黙。永峰は目に映る広親のわずかな動きにさえ注意を払う。
「心情はお察しします。ですが、なにぶん事件ですので…」
広親は重い口を開いた。
「私と兄は、この2年ほど会っていません。私は作家として兄は実家を継いで、お互い忙しい身でしたから。
その兄が訪ねて来ると言う。私は久々に飲み明かそうと酒を準備して待ってました。
ですが、兄は──どうしても行けなくなった─と連絡してきて…。まさか、それが最期になるとは…」
「その日、他に連絡は?」
「…その数日前から最近まで出版社に出向いたりしてますから、担当からの連絡は受けてました…」
言い終わり、広親は両手で顔を被った。永峰は深い呼吸をひとつすると、イスに座り直した。